日本人では30歳以上の6割が発症すると言われている下肢静脈瘤。
こむらがえり、足のだるさ、むくみ、かゆみ、痛みなどが発症し、重症化すると潰瘍になることも。一度発症すると、自然治癒することはなく早期発見が重要だ。

この数年で飛躍的に進化している下肢静脈瘤の治療法に迫る。(全6回)

2016.7.21

Vol.5 下肢静脈瘤になってしまったら? 初期症状と最新治療法、治療後のケア

命に関わらないからと放っておかないで!

                     

下肢静脈瘤は、日本人の10人に1人が発症するという研究報告があります。そして、気圧が低く気温が高い梅雨から夏にかけては、静脈が膨らみやすい環境と言えるため、静脈瘤が悪化しやすい時期です。もし、静脈瘤になってしまったらどのように対応するのが賢明と言えるのでしょうか。

従来、下肢静脈瘤は、皮膚潰瘍や血栓症発が発症するなど、重症化して初めて治療が提供される傾向にありました。直接命に関わる疾患ではないこと、および負担の少ない治療法が確立されていなかったことのふたつが、その大きな理由です。

しかし、この疾患はいったん発症すると基本的に自然に治ることはありません。生活習慣や体質により進行の速度は異なりますが、確実に徐々に悪化していきます。大きな血管の瘤の見た目が気持ち悪いだけでなく、潰瘍や血栓症などが発症すると激しい痛みで生活の質が著しく低下してしまいます。そして、他の多くの疾患と同様に、重症化してから治療を始めると、回復に時間がかかり完全に治らないこともあります。下肢静脈瘤においても、言うまでもなく早期発見、早期治療が理想的なわけですが、昨今は負担のかからない治療法が確立され、ことさら早期治療に着手しやすくなりました。

下肢静脈瘤の初期症状には、こむら返りも…

血管がボコボコと膨らんで瘤のようになるのが下肢静脈瘤の典型的な症状ですが、忽然と血管の瘤が発生するわけではありません。静脈瘤の発症は、逆流防止弁が壊れて血液の逆流が生じるところから始まります。逆流した血液が末端の静脈の壁を壊して瘤が作られる前に、血液の還流不全に伴う症状が見受けられます。そのもっとも代表的なものが、こむら返りです。

こむら返りは、一般的には筋肉を酷使すると発生しますが、下肢静脈瘤の初期症状としても非常に頻繁に見られます。また、下肢のだるさや重苦しさ、むくみなども発生初期に見受けられることがあります。これらが自覚されたら下肢静脈瘤の可能性が否定できないので、症状が気になる場合や悪化してきた際は、速やかに医療機関(血管外科)を受診して血行に関して評価をしてもらうのがよいでしょう。血液の逆流が生じていないかどうか、血管エコー検査で簡単に評価できます。

重症化していなければメスを入れずに外来で治療できる

下肢静脈瘤には複数のタイプがあり、それぞれ治療法が異なります。最近は、レーザーや高周波による治療、特殊な注射薬で瘤を焼失消失させる硬化療法など身体に優しい低侵襲治療が標準治療として確立されてきましたので、以前のようにメスを入れる身体に侵襲的な治療は非常に少なくなってきました。

下肢静脈瘤は、血管がボコボコ浮き上がって径5mm~数cmの瘤を作るタイプと、青や赤の細い血管が網目状やクモの巣状に広がるタイプのふたつに大別されます。前者のボコボコ浮き上がるタイプはさらに、①脚の付け根、太ももの内側や膝の裏から足首までほぼ直線的に繋がる血管が逆流して、ふくらはぎや向こうずね、太ももから膝の脇に血管がボコボコと浮き上がる伏在静脈瘤、②会陰部から発生して太ももの裏側やふくらはぎ周囲にウネウネと蛇行しながら血管が浮き上がる陰部静脈瘤、③伏在静脈の枝が逆流して瘤ができる側枝静脈瘤、の3つに分類され、それぞれ治療法が異なります。

伏在静脈瘤、陰部静脈瘤、側枝静脈瘤

重症化しやすく、さまざまな症状を呈する静脈瘤は伏在静脈瘤で、下肢静脈瘤と言えば通常はこのタイプになります。従来の治療法は、病的な血管を引き抜いて切除するストリッピング手術と呼ばれるものでしたが、全身麻酔や下半身麻酔を用いて一般的には入院が必要となるため、治療負担が大きいことが課題でした。昨今は、ファイバー(細いワイヤーのようなもの)状のレーザーや高周波を利用して逆流を止める血管内治療が標準的に行われるようになり、局所麻酔で実施することができるため、外来でこの治療を実施する医療機関が急速に増えています。治療後速やかに帰宅することができて、日常生活の制限もほとんどない画期的な治療が標準治療になったことは、下肢静脈瘤に悩む多くの患者さんにとって福音と言えるでしょう。

身体への負担が少なく回復も早い、とにかく早期治療を!

陰部静脈瘤や側枝静脈瘤も、血管を癒着させる特殊な薬剤(硬化剤)を注射して瘤を消失させる硬化療法により、難なく外来で治療ができるようになっています。治療時間は数分で終了し、圧迫ストッキングの着用がしばらく必要になりますが、レーザー・高周波による血管内治療以上に速やかに日常生活に復帰できます。

青や赤の細かい血管が網目状やクモの巣状に広がるタイプの静脈瘤には、陰部静脈瘤などと同様の硬化療法や、特殊な体外照射タイプのレーザーを用いた外来治療により対処できます。なお、体外照射タイプのレーザー治療は、美容医療として扱われるので、保険適用外になってしまいます。

いずれのタイプの静脈瘤に対しても、負担が小さく速やかに日常生活に復帰できる外来診療で対応できる時代になってきました。下肢静脈瘤は、他の進行性の疾患と同様、早期に発見して治療すれば治療後の回復も早く、完全に治るわけですから、負担のかからない低侵襲治療が選択できる現在においては速やかに治療に進むことを躊躇する理由がありません。

再発を防ぐには生活管理が大切

最新治療を駆使して下肢静脈瘤の治療をしたあとは、再発を防ぐための生活管理が重要になります。具体的には、以前ご紹介した下肢静脈瘤の発症予防法をまさに実践することに尽きます。立ちっぱなし、座りっぱなしを避け、第二の心臓と呼ばれるふくらはぎの筋肉や横隔膜などの呼吸筋の働きを保つことが非常に大切です。

たとえば、20分くらいの早歩きを毎日行う、朝晩各10回くらいは大きな深呼吸を励行することを習慣づけることは、下肢静脈瘤にとどまらず、エコノミークラス症候群などの発症予防においても非常に役立つと言えます。また、弾性ストッキングの着用による予防効果も大きいようです。長時間立ちっぱなしで仕事をする時や、ロングフライトの際には弾性ストッキングを着用することをおすすめします。


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Colorda編集部