2017.9.11

生魚好きの日本人を襲うアニサキス食中毒とは?

和食文化との関連性が高いアニサキス


日本人の食生活で切っても切れない、刺身に寿司。和食には、生の魚介類を使った料理が多数ある。しかし、魚介類を生で食べることを好む日本人に多く発生している食中毒がある。それは、アニサキスによるものだ。

アニサキスとは寄生虫の一種で、その幼虫がサバ、イワシ、カツオ、サンマ、アジ、サケ、イカなどの魚介類に寄生している。おもにこれらの内臓に寄生しているが、宿主である魚が死亡し、保存温度が上がって鮮度が落ちると筋肉へ移動するという性質がある。鮮度がよいうちに内臓を取り除けば、身に移動するリスクは抑えられる。

国立感染症研究所で2005年から2011年に行われた、調査によると、アニサキスによる食中毒の症例数は年平均で7,147件だった。これに対し海外では、1960年にオランダで初めて発症が認められて以来2005年までに、ヨーロッパで累計約500件、アメリカで約70件と報告されている。日本での発生率が圧倒的に高いことがわかるだろう。

体長2~3センチ、幅1ミリの幼虫が引き起こす症状

アニサキスの幼虫は、長さ2~3cm、幅0.5~1mmで白く細い糸のような形状をしている。小さな幼虫だが、ヒトの体内に侵入しすると激しい痛みを伴う症状を引き起こす。

生の魚に寄生しているアニサキスの幼虫は、ヒトの体内に入ると胃や腸で、胃壁や腸壁に食い込むように侵入する。胃に入った場合は食後数時間後から、みぞおちあたりの激しい腹痛、腸壁に入った場合は数十時間後から数日後に、下腹部が激しく痛み出す。そのほかには、吐き気、嘔吐、悪心、蕁麻疹などの症状を伴う場合があり、急性虫垂炎や胃潰瘍の症状とも似ているという。

また、日本ではアニサキスによるアレルギーの発症例もみられている。一度、アレルギーを発症すると、加熱され死亡しているアニサキスが体内に入るだけでも、アレルギー症状を起こすこともある。症状は個人差があるが、気管支痙攣などによる呼吸困難を引き起こす場合があるので注意が必要だ。

激しい痛みを早く治したい! 治療法は?

激しい腹痛などの症状がみられ、数時間前から1日前に生魚を食べた場合、アニサキスによる食中毒が疑われるので、直ちに医療機関を受診する必要がある。

アニサキス症だと診断された場合の治療は、2通りある。ひとつは、内視鏡で体内にいるアニサキスを取り出すという方法だ。アニサキスが取り除かれると激しい痛みが治まり、「嘘のように痛みがなくなった」という感覚を味わう人もいるほどだ。もうひとつは、抗アレルギー剤や駆虫薬による薬物療法がある。しかし、アニサキスに対する効果的な駆虫薬は開発されておらず即効性はない。基本的には、腸壁に侵入していて内視鏡が届かなかったり、取り除き切れなかったりした場合の対処療法として用いられている。薬物療法は、即効性がなく、個人差はあるが、胃や腸でアニサキスが死滅するまでの数日間、痛みが伴う場合がある。

日常生活でできるアニサキス予防法

効果的なのは、加熱処理と冷凍処理だ。厚生労働省は、70℃で1分以上の加熱、マイナス20度で24時間以上の冷凍で死滅するとしている。雑菌処理効果があるとされる食酢、塩、わさび、醤油などでは、アニサキスの幼虫は死滅しない。飲食店でしめサバを食べてアニサキスによる食中毒が発生した事例が、東京都福祉保健局から報告されている。アニサキスの幼虫は、魚の切り身上で動いているのが見える場合もあるため、調理時に目視により取り除いていたが、この事例では完全には除去できていなかったのが原因だ。しめサバを作る際は、塩でしめる時にマイナス20度で24時間以上凍結することが予防につながる。また、魚介類は新鮮なものを選び、すぐに内臓を取り出すこと、内臓を生で食べないといった基本的なことも忘れてはいけない。

アニサキスによる食中毒は、和食文化から切り離して考えることのできない問題だ。しかし、海外でも予防対策が講じられている。アメリカでは業者向けに生魚の冷凍方法をガイダンス、欧州では生食用の魚介類に対して一定の冷凍処理をすることを義務付けているという。アニサキス症は、日常生活に潜んでいる起こりやすい食中毒であるため、消費者である私たちも自己予防が必要だ。


Colorda編集部