2017.10.2

糖尿病と大きくかかわっているインスリンの正体とは?

インスリンってなに?

2型糖尿病とは、インスリンが十分に機能しなくなることで、血液中の糖が増えてしまう病気だ。インスリンは私たちの体内で重要な役割を果たしているというが、一体どのようなもので、どんな働きをしているのだろうか。ここでは、インスリンについて紐解き、2型糖尿病と大きくかかわっているこの物質についての理解を深めていく。

インスリンとは、膵臓から分泌されるホルモンで、血糖値を一定に保つ働きがある。私たちは食事でさまざまな栄養素を摂り入れているが、そのうち糖質である炭水化物は小腸でブトウ糖に分解され、血液中に送り出される。食事をしていないときにも、おもに肝臓でつくられた糖が血液中を流れており、同じように血液中を流れているインスリンの力を使って、細胞へと入り込む。

こうして細胞へ取り込まれた糖は、重要なエネルギー源となるほか、余った分は筋肉、肝臓などに貯蔵される。つまり「インスリンの血糖値を一定に保つ働き」とは、糖が細胞に近づくと、インスリンが細胞の入り口を開けて糖を入りやすくし、糖が行き場をなくして血液中で留まり続けないようにすることなのだ。

インスリンはなぜ作用しなくなってしまうのか?

インスリンの作用がないと糖が血液中にあふれ、血糖値が上がってしまう。これが2型糖尿病なのだが、なぜインスリンは体内で作用しなくなることがあるのだろうか。

まず、インスリンの作用低下にはふたつの種類がある。ひとつ目は、インスリンの分泌量が少なくなる「インスリン分泌障害」。膵臓の機能が低下することでインスリンが十分に分泌されず、糖が細胞にうまく入り込むことができなくなる。膵臓に負担をかける原因として考えられるのは、まずアルコールの過剰摂取だ。膵臓が消化液を多く出してアルコールを分解しようとする結果、膵臓自身を傷つけてしまう。揚げ物など油っこいものをよく食べている人や、いつも満腹になるまで食べているという人も、膵臓に負担をかけているので要注意だ。ちなみに、膵臓に関わる疾患は男性に多いという。

ふたつ目は、インスリンは十分に分泌されているものの作用ができない状態になる「インスリン抵抗性」。インスリンの働きを妨げる物質が体内で増え、インスリンから各臓器へのシグナルが伝わりづらくなるため、糖を取り込むために大量のインスリンを必要としてしまう。その原因は、おもに食べ過ぎや運動不足と言われており、肥満、高血圧、低HDLコレステロール血症などの人に多く見られる。

日本人はそもそも体質的になりやすい? さまざまな原因で発症する糖尿病

日本人の糖尿病は、インスリン分泌障害が中心だ。加えて遺伝的な要素から、さほど生活習慣の乱れが見られない人でも、糖尿病を引き起こしてしまう場合がある。また、幼い子どもや若い人が、自己免疫の乱れから発病することがあり、この場合、生活習慣や遺伝は原因ではないとされている。そして妊娠中、胎盤にあるホルモンの影響で、インスリンがうまく働かなくなって血糖値が上がってしまうことにより発症する「妊娠糖尿病」もある。ほとんどの場合、出産後に血糖値が元どおりに下がるが、妊娠糖尿病になった人は、いずれ糖尿病にもなりやすい傾向にあるため、注意が必要だ。そのほかにも、病気やその治療のために飲んでいる薬の影響で、血糖値が上昇することもあり、糖尿病の原因はさまざまだ。

糖が血液中にあふれてしまったら?

インスリンがうまく作用せず細胞へと入り込むことができなければ、糖が血液中にあふれてしまう。ただ、血糖値が相当高くなるまで症状が出ないことが多いため、体内で糖尿病が進行していても気づかないことが多い。以下のような症状が感じられたら、黄信号だ。

  • 頻尿、多尿になる
  • 喉がよく乾く
  • 体重が減る
  • 疲れやすい、だるい

血糖値が高くなると尿中に糖が出るが、腎臓が尿を薄めたり排出したりするために、尿を作り出そうとして、頻尿、多尿になる。こうして体内の水分が外に出てしまい、脱水状態となるため喉がよく乾くようになり、エネルギーが尿によって失われることで体重が減る。そして、疲れやすさ、だるさへとつながっていく。こうして徐々に進行していく傾向にあるが、急にこれらの症状が出て糖尿病だと診断される場合がある。また、糖尿病に気づかないまま合併症を引き起こしたことで、ようやくわかるという人もいるという。

体内で重要な役割を果たしているインスリン。その作用がうまく働かなくなることで、好きなものが食べられなくなる、疲れて身体が思うように動かないといった当たり前の日常が壊されることがある。見えないところで絶えず働き続けているインスリンを守るのは、自分自身だ。

*参考
・国立研究開発法人国立国際医療研究センター「糖尿病ってなに?」
・認定特定非営利活動法人・日本IDDNネットワーク
・MSD「患者さんのための糖尿病ガイド」
・アステラス製薬「糖尿病」
・日本医師会ホームページ「知って得する病気の知識・すい炎」

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部