日本人では30歳以上の6割が発症すると言われている下肢静脈瘤。
こむらがえり、足のだるさ、むくみ、かゆみ、痛みなどが発症し、重症化すると潰瘍になることも。一度発症すると、自然治癒することはなく早期発見が重要だ。

この数年で飛躍的に進化している下肢静脈瘤の治療法に迫る。(全6回)

2016.6.9

Vol.2 下肢静脈瘤になりやすいのは、「立ち仕事の人」「妊婦」「運動選手」・・・ほかには?

血液の循環は、生命維持にとって大切

血液の循環は、生命維持にとって大切私たちの身体は、心臓を中心に血液が休むことなく循環することによって、全身に必要な酸素や栄養が常に送られ、また、二酸化炭素など不要なものが排出され続けています。 ご存知のように心臓から全身に血液を運ぶ血管が動脈で、全身から心臓に血液を戻す血管が静脈です。すなわち、心臓→動脈→全身の臓器→静脈→心臓→・・・と血液は休むことなく流れ続けています。心臓から全身に血液が流れる際には、心臓のポンプ力が血液を送り出す駆出力となりますが、全身から戻ってくる際はどうでしょうか。特に足に送り出された血液は、重力の影響があるため心臓に戻ってくるのはなかなか容易ではありません。

実は、横隔膜、呼吸筋や腹筋、ふくらはぎの筋肉が、血液の循環に非常に重要―

足の血液を心臓に戻す駆動力として横隔膜、肋骨の間に張る筋肉で呼吸運動に関わる肋間筋(ろっかんきん)などの呼吸筋や腹筋、そしてふくらはぎの筋肉が非常に重要であることを皆さんご存知でしょうか。ふくらはぎについては耳にしたことがある方は多いかもしれませんが、呼吸筋や腹筋の働きにより足の血液が心臓に戻ってくることにはピンとこない方もいらっしゃるでしょう。

実は、呼吸筋がしっかり収縮することにより胸腔内の圧力が変化して下肢の血液を心臓の方へ引き上げる力が生まれます。 そして、腹筋やふくらはぎの筋肉は、規則的な拍動こそしませんが心臓と同じようにポンプとして働き、下半身へ送られた血液を心臓へ押し戻します。 特にふくらはぎの筋肉のポンプ力は血液を心臓に送り戻す際に強力に作用するため、ふくらはぎは第二の心臓とも呼ばれるほど重要です。

下肢静脈瘤の原因は逆流防止弁の不具合

ふくらはぎの筋力は常に一定の力で静脈血を押し戻し続けているわけではなく、押す、止まる、を繰り返しています。押し戻す力が止まるとき、静脈の中の血液は、重力に引かれて足先の方へと下がろうとします。このとき静脈中の血液が逆流しないよう防いでいるのが、静脈内部にある逆流防止弁と呼ばれる構造物です。逆流防止弁のなかでも、皮膚のすぐ下を走る表在静脈が脚の中心にある深部静脈に合流する部分の弁が、下肢静脈瘤の発生に関わってきます。

下肢静脈瘤は、この部分の逆流防止弁が壊れて正常に働かなくなったために起きる病気です。この弁が壊れることにより、本来心臓に戻らなければいけない深部静脈を流れる血液が表在静脈を介して足先の方に逆流して足の血管(静脈)が拡張します。拡張がすすむと静脈の壁が壊れて、瘤(こぶ)のように膨らんでしまいます。この足にできる瘤が下肢静脈瘤です。

下肢静脈瘤になりやすい人や職業は?

下肢静脈瘤になりやすい人や職業は?この様に静脈瘤の発症には、重力の影響、血液を心臓に戻す筋力の低下、逆流防止弁の破壊の3つが関わってきますので、以下のような方々が静脈瘤になりやすいと言われています。

重力の影響をいつも受けている・・・
教師・美容師・調理師・看護師・客室乗務員などの立ち仕事の人

1日の立ちっぱなしの時間が長ければ長いほど下肢静脈の発生リスクは大きくなります。また、立っていても動き回っている方が足の筋肉のポンプ力がはたらきにより逆流防止弁の壊れる可能性は小さくなると考えられます。

筋力の低下・・・
ずっと座りっぱなしで動かない人、運動不足の人、高齢者

足の血液を心臓に戻す駆動力として重要な、横隔膜、呼吸筋や腹筋、ふくらはぎの筋肉の収縮力が弱まると下肢静脈瘤が発生しやすくなります。              

逆流防止弁が壊れやすい・・・
妊婦、経口避妊薬常用者、遺伝的に血管が壊れやすい体質の人

女性ホルモンは血管を柔らかくする性質があるため、その分泌量が多くなる妊婦や女性ホルモンを含む経口避妊薬を常用する方は、血管が変形しやすく弁が壊れやすいのです。
また、脚の長い人やフルマラソンランナー、サッカー選手など激しいスポーツをする人にも、下肢静脈瘤が発生しやすいようです。

最後に、全身の血液がスムーズに循環するには、心臓の他にも、呼吸筋やふくらはぎの筋肉がしっかりはたらくことが大切です。これらの筋力の低下や立ちっぱなしなどが下肢静脈瘤の原因として特に注目されます。次回は下肢静脈瘤の具体的な症例を見ていきたいと思います。


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Colorda編集部