2016.11.24

大切なのは“思考停止しない”こと。考え抜いて前に進む/荻野みどりさん(株式会社ブラウンシュガーファースト)

第8回

荻野おぎの みどりさん
株式会社ブラウンシュガーファースト 代表取締役
大切なのは“思考停止しない”こと。考え抜いて前に進む/荻野みどりさん(株式会社ブラウンシュガーファースト 代表取締役)

子どもが教えてくれた、食の大切さ

――起業のきっかけは、出産後のお子さんとの生活の中にあったそうですね。

株式会社ブラウンシュガーファースト 代表取締役/荻野 みどりさん「人は食べたものでできている」ということを思い知る出来事があったんです。娘を母乳で育てていたのですが、ホイップたっぷりのコーヒードリンクを飲んだら娘は2週間の便秘、友人の誕生日会でケーキを食べたら娘は湿疹…。原因は母乳だ!とハッとし、食について真剣に考え始めました。そして「子どもに食べさせたいと思えるものの選択肢を増やしたい」という気持ちにつながっていったんです。

そうして始めたのがお菓子の販売。お菓子教室をやっていた母に相談し、アメリカの伝統菓子「ウーピーパイ」を売ることにしました。地元の福岡で作ってもらって、ファーマーズマーケットやWeb通販で私が売る。儲けはほとんどないものの、売れ行きは順調でした。

――その後、現在の主力商品である有機ココナッツオイルとは、どんなきっかけで出合ったのですか?

きっかけはバター不足です。バターが手に入りづらい状況下で知ったのは、マーガリンを混ぜたバターが当たり前のように出回ったということ。世の中の食品に不信感を抱きました。もともとバターをヘルシーとは感じていなかったこともあり、バターに代わる材料はないかと探して辿り着いたのがココナッツオイル。アメリカでヘルスコンシャスな人々が愛用していたんです。

当時まだココナッツオイルに関する情報はほとんどなかったので、ありとあらゆるココナッツオイルをアメリカから輸入して、食べ比べたり研究したりしているうちに、一度生産地へ行ってみようと思い立ったのです。そしてまずは、アメリカで販売されているココナッツオイルの大半を生産しているフィリピンへ行ってみることにしました。

現地の業者をネットで調べ、メールを何度か送っても、いっこうに返信がこない。結局、「○月○日の○時に行くからね!」とメールを送りつけ、当時8ヶ月の娘を家族に預け、一人でフィリピンへおしかけました。「来ちゃった!」みたいな感じで。先方も「本当に来たんだ」という様子でしたね(笑)。昔から思い立ったらすでに半歩出ているような性格なんです。

――すごい行動力ですね。そのまま順調に商品化の道を進んだのですか?

いえ、かなり気合いを入れてフィリピンに行ったにも関わらず、実はどことも契約せずに帰ってきました。何社かの販売業者を突撃訪問し、実際にいろいろ見聞きしたのですが、納得する会社が見つけられなかったんです。理由は、生産者まで把握しきれていない製造体制。フィリピンにおいてココナッツオイル産業は、古くから続く国の一大産業なんです。ゆえに業界の構造のレイヤーが細かく、販売業者ですら農場がどこにあるかまで辿れない状況。ほかにも、製造方法や労働環境にさまざまな問題が見えてきました。「わが子に食べさせたいか」を基準に食材を選ぶという思いを持っていた私にとって、それは納得のいかない状況。細部まで見えていないものを、商品化したくなかったのです。

期待していたひとつの道が閉ざされ、一人で動くことに難しさを感じ、すでに取引のあったパートナー会社の方に相談してみました。すると、タイでよい製造会社を見つけてくれて。その方と一緒に何度もタイに足を運びました。初めは私みたいな若者はなかなか信じてもらえませんでしたが、こちらの本気度を示すうちに徐々に信頼関係が生まれました。それから工場の設備や製造ラインの最適化などを行い、商品化にこぎつけたのです。そのタイの会社とは今でも取引が続いているのですが、初めて行ったときは従業員20人程度だったのが、今では100人規模の会社に成長しています。

おいしいものがたまたまオーガニック、でありたい

――品質への深いこだわりが、荻野さんを行動に駆り立てるのですね。

株式会社ブラウンシュガーファースト 代表取締役/荻野 みどりさん私たちが扱っているものは、人の命をも左右する食品です。だからこそ、何度も現地に足を運び、実際に自分の目で見て確かめ、わからないこと、疑問に思ったことは徹底的に調べ尽くすようにしています。納得した商品しか「BROWN SUGAR 1ST.」のラベルは貼りません。数年前、日本でココナッツオイルがブームになったときは生産が追いつかず欠品が続いてしまいましたが、大量生産をして品質を落とすのではなく、あえて製品の質を上げることを選びました。今でも、品質管理には力を入れています。

――お菓子のほうも、着実に販路を広げて展開されていますよね。

ナチュラルローソンに商品を置いてもらえるようになったのは、拡大のきっかけですね。

あるときふと、私たちのお菓子はナチュラルローソンと親和性が高いんじゃないかと思い、子どもの保育園の送迎途中で、「お菓子屋なんですけど、お菓子の買い付け担当の方をお願いできますか」と会社の代表番号に電話したのが始まりなんです。商品を送ったところ、すぐに気に入ってもらえて、部長さんから、「僕たちが扱うべき商品はこういうものなんだ」って言ってもらえたときは、うれしかったですね。「わが子に食べさせたいかどうか」という思いが認めてもらえたなと。

私たちがキーワードにしているのは、「ジャンクなオーガニックフード」。 “食”って、「楽しく、おいしく」がいちばん大事。そして、「楽しく、おいしい」ものがオーガニックであれば、真のサスティナブルにつながると思います。

因果関係を明確にすると、物事はシンプルになる

――社長として母として、悩みを抱えたときは、どのように解決しているのですか。

株式会社ブラウンシュガーファースト 代表取締役/荻野 みどりさん悩みができたときは、ペルソナを分けて、その悩みがどこに紐づいているのかを明確に解きほぐして考えるようにしています。私なら、母、妻、社長、女性の4つのペルソナ。役割ごとに分離しないと、なにを改善すればよいのかが、迷宮入りしてしまいますよね。女性はとくに、母として、妻としての悩みがごっちゃになっているケースが多いです。そこを整理してシンプルにすれば、見えてくるものがある。私は日頃、社長という立場で人と接していますが、いつでもその着ぐるみを脱げるようにしています。

――忙しい毎日のなかで、ご自身の健康管理はどうされているのですか。

子どもの食を考えるようになって、体調の変化と食との因果関係を考えるようになりました。でも、こういう仕事をしているからといって、頑なにオーガニックにこだわった食生活を送っているわけではありません。

外食もしますし、ジャンクなものを食べることもある。バランスが大事だと思います。ただし、身体によくないものを食べたうしろめたさをそのままにしない。普段の食生活に少しだけ気をつけてよくないものを排出できる身体にしておき、ニュートラルに戻すアイテムを持っておく。私にとって、そのアイテムは、うちの有機アップルソースなんですけどね。

医療も同様です。たとえば薬。自分の免疫を高めることは重要だと思っているので、ちょっと熱が出たくらいでは飲みませんし、基本的には控えています。でも、頼ったほうがよいときもある。そんなときは、きちんと調べて、理解した上で使用するようにしています。

身体に異変を感じたら病院にも行きますし、人間ドックも定期的に受けています。いまのところ問題はありませんが、女性系の病気に関しては、身近な友人が罹ったこともあり、注意していますね。

何事においても、思考停止しないことが大切だと思っています。わからなければ、徹底的に調べて、質問して、考えてみる。そこは仕事でも普段の生活でも同じです。

――最後に、今後の「BROWN SUGAR 1ST.」の夢を聞かせてください。

近い将来、日本の食卓の形は大きく変わっていくと思っています。食の世界が転換期にある今、私の社長としての役割は、20年後30年後の未来をリアルに想像すること。子どもたちに何を食べさせたいか、子どもたちの未来にどんな食文化を残していきたいかを考え、私たちがやるべきこと、私がワクワクしてやりたいことを思い描き、みんなに伝えていくことだと思っています。これからも、夢の実現に向け、どんどん前に突き進んでいきたいです。

▼2013年の発売以来、健康に関心の高い人々や美容関係者から支持されている「有機エキストラバージンココナッツオイル」。
有機エキストラバージンココナッツオイル

▼原材料は有機りんごだけという「有機アップルソース」は、体調をニュートラルに戻すアイテム。毎朝、親子で食べているそう。
有機アップルソース
▼2016年6月、東京原宿に初の路面店をオープン。いちばんの人気は、有機ココナッツミルクをたっぷり使用した濃厚なVEGANアイスクリーム。
VEGANアイスクリーム

荻野 みどり(おぎの・みどり)

1982年福岡生まれ。2011年、第一子の出産を機に食の大切さに目覚め、「わが子に食べさせたいかどうか?」を基準に食材を厳選した手作りの菓子店 「BROWN SUGAR 1ST.」を創業。その後、油脂選びの大切さへの気づきから有機ココナッツオイルと出合い、2013年より輸入・卸業も開始する。生産者とのつながりを大切にしながら、おいしくて、食卓を楽しくする、母親目線の商品づくりを行う。

文:鈴木友紀
撮影:浅野里美


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Colorda編集部