2015.10.8

心身の状態が現れる!? 睡眠時の歯ぎしりの役割と危険性

歯ぎしりをするのは、なぜ?

歯ぎしり睡眠中に歯ぎしりを起こしてしまう日本人の割合は5~15%と言われており、決して珍しいものではない。睡眠中の歯ぎしりは、自ら気づくのが難しいため、知らず知らずのうちに、習慣的に行っていることも珍しくない。この歯ぎしりには、上下の歯を強く噛み合わせて左右に擦り合わせギリギリ・キリキリと音がする「グライディング」と、音をほとんど立てず奥歯を強く噛みしめる「クレンチング」、そして上下の歯を小刻みにカチカチ噛み合わせる「タッピング」の3つのタイプがある。

歯ぎしりが起こるメカニズムについては完全に明らかにはなっていないが、噛み合わせの悪さ、遺伝、飲酒、喫煙、逆流性食道炎や睡眠時無呼吸症候群などの疾患、抗うつ剤の服用、ストレスが原因だといわれており、なかでもストレス性の歯ぎしりが多いとされている。つまり、歯ぎしりでストレスを発散しているのだ。このことを証明する、興味深いマウス実験がある。マウスを仰向けにして動けない状態で固定し続けると、ストレスにより100%のマウスが胃潰瘍になった。しかし、口に木片を噛ませて食いしばりができるようにしたマウスを同様の状態にすると、胃潰瘍になったのは66.7%だったという。ストレスを受けた心身を守るために、歯ぎしりを行っているとも言える。

放っておくのは危険! 過度の歯ぎしりが引き起こすもの

歯ぎしりがストレス解消になっているとはいえ、やり過ぎはよくない。通常、食事をするときの噛む力は軟らかい現代食では1kgほどだが、歯ぎしりで食いしばる時にかかる力は体重の約2倍にもなる。これは、歯でクルミを割ることができる力に相当するというから、身体への負担は大きい。噛み続けることで顎や頭の筋肉を酷使するため、顎の痛みやだるさに加え、偏頭痛や肩こり、目の奥の痛みが起こり、顎の関節症にまで発展してしまう。また、強く歯を擦り合わせたり食いしばったりすると、摩耗して折れたり、さらには歯が揺らされることで、歯周病が悪化したりする。

歯ぎしりをしやすい人はこんな人!

歯ぎしりをしやすいのはどのような人なのかというと、まずは、眠りの浅い人が挙げられる。歯ぎしりは、眠りが浅くなっているレム睡眠時に起こるためだ。睡眠時無呼吸症候群や胃酸が食道に逆流する逆流性食道炎にかかっている人は深く眠ることができず、歯ぎしりをしやすい。

性格的には、競争心が強い人、いつも時間に追われている人、目的を達成するためにとことんやろうとする人、ストレス発散がうまくできない人などが、歯ぎしりをしやすい傾向にある。心身の疲れやストレスが、強い歯ぎしりとして出てしまわないように、少し休んだり息抜きをしたりしよう。また、過度な飲酒や喫煙を控えるなど、規則正しい生活を送るように今一度、生活習慣を見直すことも必要だ。

マウスピースを作成したり、歯を削ったり、歯を矯正したりと、歯ぎしりの治療をしてくれる歯科医院もある。気になることがあれば、なるべく早く診察を受けるようにしたい。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部