とても身近な病気「下肢静脈瘤」、気になったことはここで解決!
下肢(かし:脚や足)の表面の静脈が、ぼこぼこと瘤(りゅう、こぶ)のように盛りあがったり、クモの巣状や網目状に青や赤の血管が浮きあがったりする疾患、「下肢静脈瘤」。第1回でお伝えした通り、日本では30歳以上では62%以上が発症していたとの報告があります。
最終回となった今回は、これまで臨床してきたなかで、よくいただく質問や相談をご紹介します。
- 担当医に治療は不要と言われましたが…。
- 下肢静脈瘤は基本的に命に関わる疾患ではありません。放置して足を切断することになるものでもありません。ただし、自然に治ることはなく徐々に悪化して重症化することがしばしばあります。重症化して血栓症や潰瘍が発生すると、痛みが強く生活の質が著しく低下します。早期に治療をすれば回復が期待できますので、気になる自覚症状がある場合は早めに治療するのが理想です。
- 発生した静脈瘤は、弾性ストッキングの着用やマッサージなどのセルフケアで治りますか?
- 弾性ストッキングの着用やふくらはぎのマッサージなどによる血行改善は、下肢静脈瘤の発症予防や悪化の防止には有効ですが、いったん発症してしまった下肢静脈瘤がこれらによって治ることは残念ながらありません。
- 下肢静脈瘤とエコノミークラス症候群は関係ありますか?
- エコノミークラス症候群とは、下肢の深部静脈にできた血栓が飛んで肺梗塞を起こし、死に至ることがある、非常に怖い症候群ですが、下肢静脈瘤はこの直接の原因ではありません。しかし、下肢静脈瘤が発症しやすい生活環境や素因を持っている人は、深部静脈に血栓ができやすいタイプと言えます。下肢静脈瘤を有する方は、エコノミークラス症候群を起こさないように注意が必要です。
- 手術では治せない静脈瘤はありますか?
- 最近の下肢静脈瘤治療の進歩は目覚ましく、さまざまな低侵襲治療機器(レーザー、高周波)によってほぼすべての下肢静脈瘤が大きな手術を受けなくても根治できるようになってきました。しかし、先天性の静脈瘤の中には治療が困難なタイプがあり、手術をしても根治することができず、弾性ストッキングの着用などの対症療法以外に有効な治療法がない場合もあります。
- 治療後に再発することはありますか?
- 残念ながら再発することはあります。しかし、再発しても軽症のうちに速やかに医療機関に相談すれば、硬化療法など極めて簡単な治療でケアできる場合が多いです。
- 手術の前後に気をつけないといけないことはありますか?
- 手術前後は通常の日常生活を送っていただいて問題ありません。手術を待機している間は症状が増悪しないように弾性ストッキングの着用ができればそれに越したことはないですが、必須ではありません。手術後は治療内容にもよりますが、一定期間弾性ストッキングの着用は必要になります。
- 治療後すぐ治るのでしょうか?
- 軽症であれば治療後まもなく症状は軽快しますが、一般的に下肢静脈瘤の肉眼的な症状の改善には数ヶ月から1年くらい必要になります。ただし、循環不全にともなうこむら返りや脚のむくみ感、痛みなどは治療後1ヶ月程度で改善します。
- 手術は痛いですか?
- 手術中は、局所麻酔や静脈麻酔で鎮痛鎮静しますので、原則として痛みはありません。手術後麻酔が取れてくると、打撲後の鈍い痛みやひきつれるような痛みが発生する場合がありますが、日常生活を著しく損ねるほどの痛みはありません。痛みが自覚されたとしても通常は1~2週間で消失します。
- 遠方なので何度も通院できないのですが、手術は1回で終わりますか?
- 下肢静脈瘤は治療のあと回復するまでしばらく時間がかかりますので、手術後の経過観察は多かれ少なかれ必要になります。遠方の方で容易に受診できない場合は、選択するレーザーや治療法を工夫して受診頻度をできるだけ減らすことはできますが、順調に経過したとしても、手術後6ヶ月から2年くらいに経過観察のための診察は必要です。
- 手術の合併症にはどのようなものがありますか?
- 従来の血管を引き抜くストリッピング手術の際には、出血や神経損傷などの合併症の発症リスクが注視されましたが、レーザーや高周波による低侵襲治療が標準化されてからは合併症の程度や頻度が非常に小さくなりました。すなわち、出血や神経障害は発生したとしても非常に軽微で重篤な合併症はほぼ発生しません。ただし、医療全般にいえることですが、薬剤のアレルギー反応や想定外のトラブルなど極めてまれに治療の継続が必要な偶発症が発生する可能性はあります。
- 機器の種類によって治療効果に違いはありますか?
- レーザー機種も初期のモデルは皮下出血や術後疼痛などが激しいものがありましたが、2014年夏以降は保険診療で採用された機器の性能も改善され、治療機器による差はほとんどなくなりました。もちろん、医療は日進月歩に進化しており、治療機器や治療手法は継続して改善しておりますので医療の質は年々高まっています。
- 下肢静脈瘤治療において、信頼できる病院の選び方を教えてください。
- 診療実績(手術件数など)が豊富な医療機関は、治療成績の点では信頼できると思われます。ほかにも、患者さんの立場にたって親身に対応してくれるか、説明がわかりやすいか、など医療サービスの点で安心感のある医療機関がトラブルが少ない所と言えるでしょう。
- クモの巣状に血管が透けて見えるタイプの静脈瘤は手術ができないのですか?
- このような細かい静脈瘤は病的な振る舞いをしないのでほとんどが美容治療の範疇になります。下肢静脈瘤に治して治療を提供している多くの医療機関では美容的観点での治療はほとんど対応しません。ただし、典型的な病的な静脈瘤の患者さんがクモの巣状タイプの静脈瘤に悩んでいることも多々あるため、典型的な静脈瘤はもちろんクモの巣状静脈瘤も含めてすべてのタイプの静脈瘤に対応している医療機関もあります。
- 両足に静脈瘤がありますが一度に治療できますか?
- 医療機関によっては1回の治療では片足しか実施しないという方針のところもありますが、両足の静脈瘤の治療も同日に行うことはできます。ただし、異なるタイプの静脈瘤の治療は日を変えて実施せざるを得ない場合があります。
患者さんと医療従事者の間に横たわる溝
1990年代後半に下肢静脈瘤の日帰り根治手術を考案してから20年、21世紀初頭に国際舞台に登場した根治性の高いレーザー治療機器を国内で最初に導入してから早10年以上が経過し、2000年に開設した北青山Dクリニックでの下肢静脈瘤の日帰り治療総数も3万症例を超えました。
長期にわたって下肢静脈瘤日帰り治療を手がけてきた立場として日々感じていることは、下肢静脈瘤の症状に悩んでいる患者さんは、医療従事者側が考えている以上に、極めて多いということです。そして、下肢静脈瘤に苦しむ患者さんの思いと、治療にあたる医療従事者側の評価や対応に溝を感じることもしばしばあります。下肢静脈瘤に深く悩み治療を希望して医療機関を受診したのに満足できる治療を享受できなかった、と言う声をしばしば耳にしてきました。「命に直接かかわる疾患ではないので放置してかまわない、弾性ストッキングでも履いて様子を見ましょう」と医師から伝えられて治療を諦め、長期にわたって悩み苦しんできた患者さん方の来院が後を絶ちません。
今や、下肢静脈瘤はどのようなタイプであれ日帰り(外来)治療で治すことができます。命に直接かかわる疾患ではないですが、放置すると進行し重症化すると根治的治療が難しくなる場合もあります。そうなると症状だけではなく見た目にも大きな苦痛を強いられることになり、いざ治療を開始しても治療後の回復に時間がかかるばかりか完全に治らないという事態に至ります。10年以上下肢静脈瘤の治療を希望してきたのに有効な治療を享受できなかった患者さんが、昨今の最新治療を受けたあと、みな口をそろえて「これならもっと早く治療をしておけばよかった」と話されます。
現在、ほとんどすべての下肢静脈瘤は大きな負担なく根治的治療が受けられるようになりました。気になる症状のある方は、下肢静脈瘤の治療に精通した医療機関を早めに受診することをおすすめします。