インスリン
インスリンとは?
インスリンは食後に上がった血糖値を下げて、一定値に保つ働きを担うホルモンです。そのインスリンがどれだけ分泌されているのか、採取した血液から濃度を調べる血液検査がインスリン検査です。なお、自然に分泌されたインスリンと、注射で補充されたインスリンを分けて調べることはできません。
インスリンを調べる目的
インスリン検査は、血中のインスリン濃度から糖尿病のリスクを確認する目的で行われます。血糖値と一緒に測るケースが多く、その数値と比べて分泌量が多いか少ないかを見て、インスリンの分泌機能の状態を把握することが可能です。さらに、血糖値を下げる働きが正常に機能していない状態を示すインスリン抵抗性も確認できます。
糖尿病とは、インスリンが正常に機能しない影響で血液に含まれるブドウ糖が細胞に取り込めず、血中に糖が溢れてしまう状態です。インスリン分泌の機能低下とインスリン抵抗性の2つが血糖値を上げる原因となるので、血液検査をすると糖尿病の状態がわかります。また、インスリン値の異常に影響する病気の把握にも役立ちます。
インスリンの血液検査で見つけられる病気
血液検査によってインスリンを調べることで、次のような病気の診断に役立てることができます。
●糖尿病
●急性膵炎
●慢性膵炎
●副腎機能不全
●クッシング症候群
●肝硬変
●インスリノーマ
●異常インスリン血症
●インスリン自己免疫疾患 など
インスリンの結果数値の見方
インスリンの濃度を調べる血液検査では、血中インスリン値(IRI)、HOMA-β(インスリン分泌能)、HOMA-R(インスリン抵抗性指数)の3つの数値を調べます。それぞれの基準値は以下です。
●血中インスリン値:2.7~10.4μU/mL(国立がん研究センターより)
※早朝空腹時に15μU/mLを超える場合はインスリン抵抗性あり(日本糖尿病学会より)
●HOMA-R:1.6以下。2.5以上はインスリン抵抗性あり(日本糖尿病学会より)
●HOMA-β:30%を下回る場合はインスリン分泌低下あり(熊本医療センターより)
血中インスリン値とHOMA-Rは数値が高いほどインスリン抵抗性があると判断されます。インスリン抵抗性とは、インスリンが正常に機能していない状態のことです。HOMA-βの場合は数値が低いとインスリン分泌低下と考えられ、糖尿病などの病気が疑われます。
インスリンの血液検査の長所/短所
インスリンの濃度は、血液検査で手軽に確認できます。人間ドックを通じて検査を受けることで、糖尿病の可能性を早期に発見することが可能です。また、インスリン値の異常には糖尿病以外にもさまざまな原因があるため、膵臓や副腎などの病気の発見にもつながります。
その一方で、血液検査には短所もあります。採血のために使う注射針を刺す痛みが苦手という人も多いです。採血が苦手な人は過度なストレスを感じやすく、迷走神経反射と呼ばれる状態を起こすケースがあります。迷走神経反射は、ストレスや緊張の影響で交感神経と副交感神経のバランスが乱れる状態のことで、冷や汗・低血圧・顔面蒼白・吐き気などの症状が現れる場合があります。
採血では注射器だけではなく、衛生面に配慮してアルコール綿や手袋などを使用します。ただし、これらの物品も人によっては、アレルギー症状の原因となることがあるので注意が必要です。とくにアルコール綿は、蕁麻疹や皮膚のかゆみなどの症状が現れやすいです。手袋もゴム製であるため、ラテックスアレルギーだとアレルギー症状を起こす可能性があります。注射針はアレルギーが出にくいステンレス製が一般的ですが、症状がまったく出ないとは限りません。アレルギーに不安のある方は、事前に医療スタッフに伝えてください。
また、採血時に注射針が神経に触れてしまい、神経が損傷する場合もあります。採血による損傷であれば、ほとんどが2~3ヶ月で自然治癒するので大きな心配はいりません。しかし、血を採っているときにピリッと痛みを感じたら、我慢せずに医療スタッフへ伝えましょう。
ほかにも、採血のあとに青アザができることも多いです。内出血による青アザですが、時間が経つと周りの組織に吸収されて薄れていくので安心してください。
インスリンの血液検査の流れ
インスリンの濃度を調べるためには、採血が必要です。どのような流れで血液が採取されるのか、具体的な流れをご説明します。
1. ひじの内側など血管がはっきりと確認できる部分を露出させ、専用の小さな台に腕を乗せる。
2. 上腕部を「駆血帯」と呼ばれるひもやベルトで締める。
3. アルコール綿で消毒し、注射針を刺す。
4. シリンジ内の検体が血液でいっぱいになったら、アルコール綿で抑えながら針を抜く
(ほかの項目の血液検査を行うために、複数の検体を取ることもある)。
5. 注射した部位に絆創膏を貼る。血が止まるまでの数分間、自身で圧迫しておく。
6. 完全に止血したら、絆創膏を剥がす。
<参考>
国立研究開発法人国立がん研究センター「臨床検査基準値一覧」2019年11月版
この記事の監修ドクター

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)