2016.3.17

第4回 これまでの選手生活は人生の序章 本当の夢の実現はまさにこれから/村主章枝さん(プロフィギュアスケーター)

プロフィギュアスケーター・振付師 村主 章枝さん

プロフィギュアスケーター・振付師 村主 章枝さん

プロフィギュアスケーター・振付師
村主 章枝さん

すぐりふみえ●1980年生まれ。幼少期をアメリカで過ごした後、6歳でフィギュアスケートを始める。1997年に16歳で全日本選手権初優勝。その後も同大会では、3連覇を含む5度の優勝を勝ち取る。その他、四大陸フィギュアスケート選手権では3度の優勝、ソルトレイクシティ五輪5位、トリノ五輪4位という輝かしい戦績を持つ。2014年11月、ファンに惜しまれつつも現役を引退。現在は、プロフィギュアスケーターとして、さらには振付師やコーチとして、日本とカナダを拠点に活躍している。

15歳で目覚めた、振付師への道

――“氷上のアクトレス”と称され親しまれてきた村主さんが、多くのファンに惜しまれつつ競技者生活を引退して1年以上が過ぎました。最近はどのような活動を行っているのですか。

プロフィギュアスケーター・振付師 村主 章枝さんプロフィギュアスケーターとしての活動や、コーチなども行っていますが、もともと振付師になるのが夢だったので、カナダで師匠についてその勉強をするなど、日本とカナダを行き来しながら、今後に向けた準備をしているところです。

――振付師は、引退後の道として考えていたものなのですか。

そうではありません。振付師は15歳のころからの夢。初めて振付師の先生についてもらったときにエンターテイメントの素晴らしさを教えていただき、私もこの先生のようになりたい、振付師こそ私の夢だと思ったのです。そこで私は、その夢を叶えるためには、まずは作品を作る上で、自分の技術を磨く、スケーターとして技術を磨くことが必要でした。つまり、これまでの選手生活は、私にとっては振付師になるためのひとつの過程。ですから、選手生活からの引退も、私の人生においてはまだ序章が終わったにすぎません。私にとっての本当のステージは、まさにこれからが幕開けだと思っています。

――世界中の人々から称賛を集める功績を残しながらも、それを序章と言い切れるのはすごいことだと思います。そこに登りつめるのにも相当の苦労があったと思いますが、どうやって乗り切ってきたのでしょうか。

私は選手時代、常にあと一歩の人生を送っているといわれ続けてきました。悔しいけれど、まさにその通り。天才でも、才能があるわけでもないのです。だから自分自身でも、これでいいのかと自問自答し続けてきました。でも、私にとっては、スケート以上に面白いものはないのです。スケートこそ私の人生。そういう強い思いがあったので、あきらめずに続けてこられたのだと思います。

――夢の実現に向けた新たな一歩を踏み出された今の心境は?選手時代と比べて、気持ちに違いや変化はありますか。

選手時代の方が、試合という目標があった分楽でした。結果も順位や得点というように、目に見える形のものが多かったのでわかりやすかったです。でも振付は、作品のクオリティはもちろんですが、その評価は、演技する人の力量にも関わってきます。芸術性と現実とのギャップ。そこがとても難しいところであり、今後ずっと持ち続けていく課題になると思います。とはいえ、手を抜くというのは私のなかでは有り得ない。選手時代を支えてくださったファンの方々も、何事にも必死に取り組む私の姿勢に共感してくださっていたと思うので、これからも相変わらずの全力投球で、頑張り続けたいと思っています。

常に自分の身体と向き合い、適切なケアを心がける

――アスリートにとって、健康管理や身体のメンテナンスは大変重要なものだと思いますが、選手を引退した今は、それについてどのように考えられていますか。

プロフィギュアスケーター・振付師 村主 章枝さん選手時代は、15歳で強化選手に選ばれてから毎年欠かさず人間ドックを受けていましたし、身体のメンテナンスについても、周りのアドバイスを受けながら行っていました。でもこれからは、そういったこと、すべてを自分で行わなければならないので、より一層の自己管理が大切だと思っています。

たとえば、引退の3年前くらいから、疲労の回復力が落ち始めるなど年齢による身体の変化を実感し始めていたのですが、選手を引退して生活スタイルが変わり、練習をする時間が減るなかでも、滑り続けられる身体をキープするためには、日々のストレッチやマッサージは欠かせません。むしろ以前より入念に行っています。しかし昨年、仕事と自分の身体のケアの時間のバランスをうまくコントロールできず、コンディションを崩してしまったこともあったので、それを教訓に、身体の声を聞きながらケアするよう心がけています。

また健康管理については、引退後も年に1度は検査を受けるようにしており、つい先日も人間ドックを受診してきたのですが、私は甘いものが好きでついつい食べ過ぎてしまうところがあるのですが、それがはっきり数値に現れてしまったので反省しましたね。こうした気づきがとても大事だと思うので、定期的な検査はこれからも続けていきたいと思います。

――指導者という立場としてはいかがでしょうか。

アスリートとして上を目指す子どもたちには特に、早いうちから身体のメンテナンスや健康管理の大切さについて理解してもらえるよう、力を入れて指導しています。さらに、その源になるのが家庭での生活習慣や食事。大事なのは、規則正しく、バランスよくといったごく基本的なことですが、ご家族の協力が欠かせない部分でもありますので、親御さんに対する説明も欠かせませんね。今、自分の興味と実益を兼ねてサプリメントアドバイザーの資格取得のための勉強をしているのですが、それも、自分のこれまでの経験に加え、新たな知識として役立っています。ただ、子どもには分かりやすくかみ砕いた言葉で、大人には納得いく言葉で伝えなければならないのが難しいところです。

具体的な目標設定が夢の実現の近道に

――選手としてフィギュアスケートの世界で一時代を築いた者として、さらにこれからまた、振付師という夢を叶えようと新たなる一歩を踏み出した自分を振り返り、人生における困難を乗り越え、前に突き進んでいくための極意を教えてください。

プロフィギュアスケーター・振付師 村主 章枝さん目標設定が大事だと思います。しかも中長期的なビジョンで。また、あこがれの人、目標とする地位などを具体的にイメージすると、そこに近づくための過程が見えてくるので、何を努力すればいいのかがより鮮明になると思います。そして、諦めないことが大切です。失敗してもいいと思います。しかし、その失敗を次にどう生かすか、立て直し、諦めずにまたチャレンジするかが大切です。
振付師になるためには、自分自身もずっと練習をし、アイディアを探し続けなければならず、大変です。でも、15歳の時に見つけた振付師になるという大切な夢を実現させたい。私の作品が多くの方の心を動かし、生きていく励みとなるような、そんな作品を作りたい。そんな強い思いを胸に、持ち前の根性で一生懸命勉強し、これからもどんどん前に突き進んで行きたいと思います。


Colorda編集部