「いつまでも若々しく、健康でありたい」という願いを叶えるメソッドが、最先端の研究により明らかになってきている。
今回は、老けない、ボケない、病気にならない...そんな運動法に注目し、世界中の研究者の理論を幅広く紹介。多様な運動法のなかから自分に合う方法を見つけ、ぜひ実践してほしい。

2016.10.20

認知症を予防する運動、第1位は「有酸素運動」

再生能力を持つ「幹細胞」が老化の鍵を握る

Three runners sprinting outdoors - Sportive people training in a urban area, healthy lifestyle and sport concepts
皮膚や血液の細胞のなかには、少数であるが「幹細胞」という再生能力を有する特殊な細胞があり、組織の維持に関与している。幹細胞は自己複製能力と分化能力の両方を維持する細胞で、必要なときには分化して臓器の再生に重要な役割を果たしている。

一方、定常状態では一定の頻度で分裂・分化することにより臓器の萎縮を防ぎ、臓器が一定のサイズを保つことにも関与している。最近では脳や筋肉などこれまで細胞分裂しないと言われてきた臓器でも、加齢とともに臓器が萎縮するのは、脳や筋肉に存在する少数の幹細胞自身が老化して再生能力を失うことがその原因のひとつであると考えられている。

脳卒中後のリハビリで機能訓練することにより神経機能が回復するのも、脳のなかにわずかに存在する神経幹細胞が分裂・分化し、病巣の修復や新たな神経回路を作ることにより神経機能を回復させるためである。

それではこの神経幹細胞は、どのような状況で分裂して、その数を増やすことができるのだろうか。そのメカニズムが解明すれば、脳の萎縮や老化を予防することができるかもしれない。

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脳の神経細胞を活性化させる最も有効な方法は「走る」こと

米国ソーク生物学研究所のヘンリエッテ・ヴァン・プラーグ博士は、ネズミを使った実験で、走ることが最も脳のなかの神経幹細胞を活性化させるのに効果的であることを見いだした。以前から「豊かな環境」と定義された遊び道具などが置かれている飼育環境で飼育されたネズミは、神経幹細胞が多いことが報告されていたが、ヴァン・プラーグ博士は回し車やトンネルや水迷路などの遊び道具のなかで、どの要素が神経幹細胞を活性化したのかを確かめるために、ネズミを回し車群、水迷路群、プール群、通常のケージ群、豊かな環境群(すべての遊び道具があるケージ)の5つの群に分け実験を行った。

その結果、回し車の群で飼育されたネズミは豊かな環境群と同様に神経幹細胞が対象群の2倍以上増加していることを見いだした。博士は「少なくともネズミでは走ることが脳の活性化に重要であることが示された」と走ることと認知機能の関連性を強調する。それでは人でも走ることは認知機能を維持するのに重要なのだろうか。

有酸素運動による血流改善が認知機能にも好影響

米国テキサス大学のサンドラ・チャップマン博士らの研究グループは、57〜75歳の高齢者37名を対象に、有酸素運動を12週間続けた群と運動をしなかった対象群に分け認知機能、安静時脳血流、心臓血管機能を運動前後で比較した。運動群の高齢者にはエアロバイクやトレッドミルなどの有酸素運動マシンを用いて週3回、1回1時間の運動を12週間継続させた。

その結果、有酸素運動をした群では対象群に比べて有意に記憶力が改善していた。脳の血流を非侵襲的回転ラベルMRI法と呼ばれる方法で測定すると、認知機能の改善は脳海馬体への血流量の増加と相関することがわかった。心血管系の機能も同時に改善していることから、研究チームは有酸素運動により心臓の機能が改善し、それに伴い脳の海馬体への血流が増加することにより認知機能が改善したと考察している。

高齢期には膝関節症などの膝の問題を抱えている人も多いと思う。なかなかランニングなどハードな有酸素運動ができない高齢者も多い。しかし、心血管機能が向上することにより脳の海馬体の機能が改善するのであれば、速歩などのウォーキングでも同じような効果が期待できるだろう。これまでも汗ばむ程度の速歩を推奨してきたが、心拍数がある程度上昇する速歩で認知機能が保持できる可能性も高い。認知機能と同時に骨も強くしなければならないので、できれば外出して日光浴を楽しみながらウォーキングや速歩で認知機能を保持するように心がけたい。

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Colorda編集部