前編

早期発見こそが、医療の進歩の恩恵を最大限に享受できる。
何よりも「がん検診」を受けてほしい

公開日:2026.07.08
目次
  1. 当たり前の日々が変わる。ある日突然、身に降りかかる乳がん
  2. 治療の副作用である吐き気や脱毛は、大きく改善している
  3. 発見が早期であるほど治療負担は軽い―そのためには検診が欠かせない
  4. 早期発見してこそ、医療の進歩の恩恵を最大限に享受できる
  5. 毎年巡ってくる大切なイベント月に、がん検診の予約を入れてしまおう
  6. 「検診」と、異変を感じたときの「受診」は、両輪で考えてほしい

当たり前の日々が変わる。ある日突然、身に降りかかる乳がん

30代の女性Aさんはある日、何気なく乳房を触った際に、しこりがあるのに気づきました。私が責任者を務める乳腺外科を受診され、検査で転移も見つかり、進行した乳がんと診断されました。Aさんには小さなお子さんがいます。診断を受けたとき、ご本人だけでなくご家族も言葉を失い、これからの生活をどうしていくのか途方に暮れました。

幸いにも薬物治療が非常によく効き、Aさんは現在、元気に日常生活を送っています。一方で、再発の不安を抱えながら日々を過ごしているのも事実です。治療後の乳がん患者さんの気持ちは日々揺れ動きます。「大丈夫だ」と思える日もあれば、「やはりだめかもしれない」と不安に襲われる日もあります。

これは、Aさんに限った話ではありません。みなさんご自身にとって、乳がんはどのような病気でしょうか。すでに罹患された経験のある方や、身近な人が乳がんになった方もいるでしょう。一方で、「まだ自分には関係ない」と感じている方もいるかもしれません。

しかし、それはある日突然、我が身に降りかかってきます。仕事も家庭も、それまで当たり前だった生活が、まったく違うものになる可能性があるのです。

私はAさんの症例を通して、若い方々にとっても、乳がんが決して「遠い病気」ではないことを、改めて実感しました。

治療の副作用である吐き気や脱毛は、大きく改善している

はっきり言えるのは、乳がんは「特別な人がなる病気」ではないということです。乳がんは現在、日本で最も発症数の多い女性のがんであり、2023年には10万2592人の女性が新たに乳がんと診断されています(※)。実に女性の8人に1人が、一生のうちに乳がんを経験すると言われます。

※出典:国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 最新がん統計

もちろん、必要以上に恐怖心をあおりたいわけではありません。実際、多くの方が乳がんの診断・治療後に再発することなく、あるいは再発しても治療を続けながら、病気とうまく付き合い、生活を続けています。

近年、乳がん治療は大きく進歩しました。手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせた治療が行われますが、特に進歩が著しいのが薬物療法です。一般的な抗がん剤に加え、ホルモン療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などが使用可能となり、乳がんの進行度やタイプに応じて治療が最適化されています。

また、薬物治療を支える支持療法も大きく改善しています。もっとも分かりやすい例が、吐き気止めです。吐き気止めは劇的に進歩し、治療中に強い吐き気で苦しむ方は大きく減りました。脱毛についても、脱毛を抑える医療機器が開発され、診療で使われるようになっています。

さらに、現在の乳がん治療の大きな特徴は、「個別化」です。必要以上に治療を強めることなく、早期の患者さんでは不要な治療を控えることで、体への負担を軽減できるようになっています。

発見が早期であるほど治療負担は軽い―そのためには検診が欠かせない

こうした治療の進歩を踏まえたうえで、私が強くお伝えしたいのは、やはり「検診」の重要性です。早期に診断されれば、同じく命が助かるとしても、より強度の弱い治療で済む可能性が高まります。

ですから40歳以上の女性には、どんなに忙しくても2年に1度、乳がん検診を受けていただきたいと思っています。乳がんは、検診によって死亡率が低下することが科学的に示されている、数少ないがんの一つだからです。

実際、私の患者さんにも、40代前半で乳がんを早期発見された女性がいらっしゃいました。自覚症状はまったくありませんでしたが、職場の健診で乳がん検診を受けたところ、数ミリのがんが見つかったのです。ごく早期だったので手術は小さく済み、抗がん剤治療も不要で、現在まで再発もなく日常生活を送られています。

早期発見してこそ、医療の進歩の恩恵を最大限に享受できる

近年発表された米国の大規模研究では、1975年から2019年にかけて乳がん死亡率が58%低下したことが示されました。その要因を分析すると、死亡率低下の約4分の1は検診の普及によるものでした。残りの約4分の3は治療の進歩によるもので、その貢献は言うまでもありませんが、検診が果たしてきた役割も見過ごせません。治療が進歩した今だからこそ、早期に発見することで、その恩恵を最大限に受けられるのです。

それでも、仕事、家事、育児に追われる30~40代の女性にとって、「自分のことは最後」になってしまうのは致し方ないこと、検診は後回しになりがちです。診療の現場では、「忙しくて行けなかった」「痛いと聞いて怖かった」「なんとなく不安で先延ばしにしていた」といった声をよく耳にします。痛みや怖さを思って腰が重くなるのも、ごく自然なことです。

特に30代の方は、国が定める乳がん検診の対象外であるため、40歳以上のように自治体から検診の案内が届くことはありません(職場健診などで受けられる場合はあります)。これは、30代では乳がんの頻度が相対的に低いことの裏返しでもありますが、冒頭の症例のように、30代でも乳がんを発症する方がいるのもまた事実です。

毎年巡ってくる大切なイベント月に、がん検診の予約を入れてしまおう

なかなか検診に行かれていない方は、何から始めればよいのでしょうか。私がお勧めしたいのは、「次の2年の特定の月に、検診の日を予定として入れてしまう」ことです。完璧なタイミングを図っているうちに、別の予定がどんどん埋まってしまいます。そこで例えば、誕生月や結婚記念月など毎年必ず訪れるプライベートな行事月に合わせて予約し、家族や職場のカレンダーに入れてしまう。それだけで、受診のハードルは下がります。検診は、意志の強さで続けるものではなく、「仕組み」として続けるものなのです。

マンモグラフィの痛みが心配な方も多いと思います。確かに乳房を圧迫するため、痛みを伴うことがありますが、その感じ方には個人差があり、撮影時の技術や声かけによって負担感は大きく変わります。

また、30代など比較的若い方の場合には、マンモグラフィではなく、超音波検査による検診の方が適していると考える医師もいます。いずれにしても、不安がある場合には、受診前に医療機関へ相談し、ご自身の年齢や状況に合った検査について説明を受けていただくことが大切です。

「検診」と、異変を感じたときの「受診」は、両輪で考えてほしい

医師として診療をしていると、乳がんの治療は患者さん本人だけでなく、家族全体の生活に大きな影響を及ぼすことを強く感じます。小さなお子さんのいる方では、通院の調整、仕事のやりくり、育児や家事の分担など、治療は生活と密接に結びついています。医療は、決して生活から切り離されたものではありません。

だからこそもう一つ、「症状に気づいたときの受診」が検診と同じくらい重要であることをお伝えしておきたいのです。

そもそも検診の価値は、異常が見つかったときだけでなく、「何もなかった」と確認できる安心感にもあります。一方で、検診さえ受けていれば安心とまでは言えず、検診と検診の間に病気が見つかることもあります。ですから「検診は定期点検、受診は異変を感じたときの確認」と、セットで考えておいていただきたいのです。国による検診がない30代の方々には、この点が特に当てはまります。

しこりや、乳頭から赤色の分泌物が出る、といった症状は、乳がんが疑われます。自覚した場合は、検診の予定を待たず、できるだけ早く医療機関を受診してください。一般に、検診で指摘される乳がんよりも、症状をきっかけに見つかる乳がんの方が進行していることが多いからです。

事実、新たに診断される乳がんの多くは、症状を契機に発見されています。私が2006年から2016年にかけて福島県浜通り地域で調査した乳がん患者さんでは、約4分の3が症状の自覚をきっかけに医療機関を受診していました。

もちろん、しこりや分泌物といった症状のすべてが乳がんによるものではありません。しかし、だからこそ、「深刻な病気が隠れていないか」を医師と一緒に確認するために、早めに受診していただきたいのです。

不安な症状がある場合は、検診を待たずに受診してください。電話で相談するだけでも構いません。不安は、確かめることで小さくできることがあります。

どうか一人で抱え込まないでくださいね。

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尾崎章彦医師

記事執筆

尾崎 章彦(Akihiko Ozaki)

公益財団法人ときわ会常磐病院乳腺甲状腺センター センター長

2010年に東京大学医学部を卒業後、2012年の震災以降、福島において臨床および研究活動に従事している。臨床では乳がん、甲状腺疾患、一般内科の診療に携わり、研究では震災後の健康問題に加え、製薬マネーの問題に取り組んできた。近年は、持続可能な地域医療・ケアのあり方を見据え、医師の教育やリクルート、地域との連携にも力を入れている。製薬マネー・医療機器マネーデータベース「Yen For Docs」(https://yenfordocs.jp/)を主催。

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