日本人では30歳以上の6割が発症すると言われている下肢静脈瘤。
こむらがえり、足のだるさ、むくみ、かゆみ、痛みなどが発症し、重症化すると潰瘍になることも。一度発症すると、自然治癒することはなく早期発見が重要だ。

この数年で飛躍的に進化している下肢静脈瘤の治療法に迫る。(全6回)

2016.5.26

Vol.1 そもそも下肢静脈瘤とは? 放置すると重症化して治療が困難となる可能性も

下肢静脈瘤は、30歳以上の6割がかかる疾患

下肢静脈瘤多くの人が患っているのにもかかわらず、広く認識されていない疾患のひとつに下肢静脈瘤があります。下肢静脈瘤は、下肢(かし:脚や足)の表面の静脈が、ぼこぼこと瘤(りゅう、こぶ)のように盛りあがったり、クモの巣状や網目状に青や赤の血管が浮きあがったりする疾患です。その症状のある人は意外に多く、加齢とともに発症数は増えていきます。日本では15歳以上の男女の43%、30歳以上では62%以上が発症していたとの報告も。

一旦発症すると、自然に回復することはない

下肢静脈瘤の発症の危険因子は、立ち仕事、妊娠・出産、高身長、肥満、遺伝など。一旦発症すると基本的には自然に回復することはなく徐々に悪化します。一般的に進行は緩徐ですが、重症化すると潰瘍や血栓症などが発生し治療に難渋する場合があります。

脚のこむらがえり、だるさ、むくみ、かゆみや痛みなどが典型的な症状です。そして、見た目を気にする患者さんが多く、「ボコボコと膨らんだ血管が気持ち悪い」「温泉に行けない」「短パンになれない」「スカートがはけない」など、往々にして深刻な悩みを抱えていますが、基本的に命に関わらないことから、医療機関側が積極的に治療を実践してこなかった疾患でもあります。

下肢静脈瘤は、放置すると進行し重症化し得ます。そして直接の原因ではないものの、突然死の原因になるとしてしばしば注目されるエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症、肺塞栓症)が発症する危険因子のひとつです。

従来の治療法は入院が必要で敬遠されがち

従来の治療法はストリッピング手術とよばれ、静脈瘤の原因となる逆流血管を引き抜いて取り除くものでした。この治療法は切開が必要で、術後の出血や神経障害の発症リスクが比較的大きく、入院加療となる場合が多いため、医療機関側が安易に治療に進まない傾向にありました。

患者さん側も、入院してまで治療しなくても良い、皮膚にメスを入れたくない、合併症が怖い、という心理がはたらき、弾性ストッキングを着用するのみで様子を見るか治療をあきらめて放置する方が多かったようです。

その結果、重症化してからようやく手術に進むケースが目立ちました。重症化してからの治療は、治療後の回復に相当の時間を要するうえに、完全に回復しないこともあるため、早期に治療に進める負担の小さい治療法の考案が長く求められてきました。

重症例も目立つ下肢静脈瘤。早期治療が大切

そしてようやく最近、レーザーや高周波を用いた血管内治療や硬化療法など、身体に負担が少ない方法が主流になってきています。切開不要で重篤な合併症もなく、全身麻酔や入院も必要としないため、非常に治療に進みやすくなりました。患者さんの心身に負担が少ない外来治療が標準となりつつあります。

必ずしも緊急治療が必要というわけではありませんが、思い当たる症状があれば早期に治療をすることをお勧めします。治療自体はそれほど難しいものではありません。ただし複雑な下肢静脈瘤もしばしば見られるため、治療を希望する際には血管外科などこの疾患に精通した専門科を受診するのがよいでしょう。


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Colorda編集部