日本人では30歳以上の6割が発症すると言われている下肢静脈瘤。
こむらがえり、足のだるさ、むくみ、かゆみ、痛みなどが発症し、重症化すると潰瘍になることも。一度発症すると、自然治癒することはなく早期発見が重要だ。

この数年で飛躍的に進化している下肢静脈瘤の治療法に迫る。(全6回)

2016.6.23

Vol.3 下肢静脈瘤の症例を紹介。ほとんどすべての静脈瘤はレーザーで治せる

下肢静脈瘤は、30歳以上の6割がかかる病気

以前の連載でも触れましたが、下肢静脈瘤は、日本人では15歳以上の男女の43%、30歳以上では62%以上の人に発症していたとの報告もあるほど、身近な病気ですが、非常に多くの方に発症していることはあまり知られていません。

立ち仕事の方は特に発症頻度が高く、一旦発症すると自然に回復せず悪化していきます。放置すると年齢が進むにつれて徐々に悪化し、しまいには重症化して血栓症や潰瘍になる場合があります。また、ボコボコと血管が浮き上がらないけれども、細かい青や赤の血管が網目、クモの巣状に脚に広がるタイプの静脈瘤に切実に悩んでいる方も多数いらっしゃいます。

今回は下肢静脈瘤の具体的な症例をご紹介。そして、治療前の写真と最新のレーザー治療による治療後の写真も掲載しています。

症例1:典型的な下肢静脈瘤 (立ち仕事で比較的高齢の方)

症例1:典型的な下肢静脈瘤 (立ち仕事で比較的高齢の方)この患者さんは60歳代の看護師の方で、こむらがえり、脚のむくみ、重苦しさとだるさを主訴に治療を希望され来院しました。太ももの付け根にある逆流防止弁が壊れたことにより発症した典型的な下肢静脈瘤です。

下肢静脈瘤の原因は、血液の逆流を防ぐ弁が壊れること。脚の血管にある逆流防止弁のなかで特に壊れやすいのは、表在静脈と深部静脈の合流点にある弁で、そのなかでも脚の付け根と膝の裏にある合流点の2カ所の弁が壊れることが多く、その片方もしくは両方の弁が壊れることによりボコボコと膨らむ典型的な静脈瘤が発生します。

症例2:治療が難しい下肢静脈瘤(逆流血管が巨大)

症例2:治療が難しい下肢静脈瘤(逆流血管が巨大)下肢静脈瘤に対する治療技術の発達により、ほとんどすべての下肢静脈瘤は、日帰りのレーザー手術で治療できるようになりましたが、なかにはレーザーで対応しにくいケースもあります。

この患者さんは40歳代の男性で、弁不全をきたした大伏在静脈(だいふくざいじょうみゃく)の拡張径が約20mm ありました。大伏在静脈は足首から脚の付け根まで走行して脚の付け根で深部静脈に合流する血管です。下肢静脈瘤の原因となる代表的な血管で、正常時の血管径は2-3mm程度です。保険診療での下肢静脈瘤血管内治療ガイドラインでは、伏在静脈の拡張径15mm未満がレーザー治療の適用とされていますので、それをはるかに超過していますした。

しかし、手術のやり方を工夫して適切なレーザー機種を選択した結果、最高波長2000nmのレーザーを用いて硬化療法を併用することによりメスを入れることなく治療を行うことに成功しました。術後も良好で、手術後1週間で目に見えて凸凹がなくなり、問題なく回復しました。

症例3:重症化した下肢静脈瘤(足に潰瘍ができてかなり痛い)

症例3:重症化した下肢静脈瘤(足に潰瘍ができてかなり痛い)この患者さんは飲食店を経営し、現役で仕事をしている84歳の女性で、ふくらはぎに潰瘍ができていました。下肢静脈瘤を放置して悪化してしまった典型例です。痛みが強く歩行困難の状態でした。脚を拝見すると、左脚に典型的な静脈瘤があり、それが潰瘍の原因であることは明らかでしたが、本人は原因が下肢静脈瘤であるとは思わず、潰瘍腫瘍は皮膚のみの問題と考えて、今まで複数の皮膚科を受診して治療を受けいたのだとか。もちろん、症状は改善せず、当院に来院されました。

早速、レーザーによる血管内治療と硬化剤注射による治療を併せて行いました。ご本人いわく「嘘のように、潰瘍が改善した」と、喜んでいらっしゃいました。重症化してから治療を受けられた方々の多くは、簡単な治療で、痛みや悩みから解放されることを知ると、「もっと早く有効な治療を受ければ良かった」と口々に話されます。

症例4:網の目、クモの巣静脈瘤(医療機関では重視されないが本人の悩みは深い)

症例4:網の目、クモの巣静脈瘤(医療機関では重視されないが本人の悩みは深い)医療機関が治療の対象とするのはボコボコと血管がふくらむ典型的な下肢静脈瘤で、細かい血管が網目やクモの巣ように目立つ別のタイプの下肢静脈瘤を治療する医療機関は多くありません。ところが実際は、これら細かいタイプの静脈瘤に悩んでいる方は少なくはありません。

この患者さんは何年も前から網目、クモの状の静脈瘤に悩まれていたそうです。ある医療機関に相談したところ、「個性なので気にする必要なはい」「治療は不要」と言って、治療法の提案をしてもらえなかったとのこと。

このタイプの静脈瘤は、たかが外見だけの問題だと軽視されがちですが、ご本人にとってはこの症状は辛く、その悩みは深いと思われます。ボコボコと膨らむ典型的な下肢静脈瘤の治療を行う専門科は血管外科ですが、この細かいタイプの静脈瘤の方は血管外科を受診しても前述のように相手にされず治療のために何科を受診すればよいのか途方に暮れることが多いようです。

欧米では、青や赤色の細かい静脈が脚に広がるこれら網目状、クモの巣状静脈瘤(レッグべイン)に対するレーザー治療は、脱毛レーザー治療に次いで大きいニーズがあります。日本ではまだまだ対応できる医療機関が少ないようですが、血管外科、形成外科、皮膚科で対応するところはあるようです。このタイプの静脈瘤の治療で使うのはロングパルスYAGレーザーで、完全に外来治療で行われます。ダウンタイムもほとんどなく入浴も運動も制限を受けませんので、日常生活に支障がなく治療ができます。

少しでも下肢静脈瘤の症状があれば「まず受診」が、未来を変える

下肢静脈瘤には様々なタイプのものがありますが、現在はレーザーを用いて外来での簡単な治療で対応できます。放置して症状が悪化してから治療を開始すると、回復に時間がかかり簡単に治らない場合がありますので下肢静脈瘤に悩んでいる方は早めに医療機関を受診することをお勧めします。負担の少ない通院加療により、肉眼的ストレスが消失し、生活の質も向上します。


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Colorda編集部