MRIは原子レベルの変化を解析する緻密な装置
MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断装置)は特殊な検査装置である。デジタルカメラのように、レンズの先にあるものをありのまま写すのではない。あるいはレントゲンのように、放射線を当てた部分の組織のコントラストをフィルムに焼き付けるわけでもない。人体が収まるくらいのトンネルに、強力な磁場を作って、組織内の水素分子に刺激を加える。そのときに起きる変化を解析して、画像として再構成するのがMRIだ。
要は、原子レベルの変化を解析する緻密な装置ゆえに、ノイズがわずかにでも含まれることで、検査結果に大きな悪影響を及ぼすことがあるのだ。これは、MRI検査でネックレスや指輪などの装飾品が敬遠されている理由のひとつといえる。
MRIは、たとえるなら巨大な磁石のようなものなので、鉄やニッケルなどが多く含まれる装飾品であれば、磁化という現象が起こる。すると、MRIとお互いに引き寄せ合ってしまい、検査データを大きく乱してしまうのだ。
指輪が熱をおびて組織を傷害する
指輪などの装飾品をつけたまま、MRI検査を受けると、その周囲の組織に熱傷を負うことがある。これは指輪に含まれる鉄などが磁石と引き合う強磁性体で、MRIに入るとその作用で磁化されることで熱を発生するためだ。ただし、金や銀、プラチナといった貴金属が大半を占める装飾品であれば、それほど心配はいらない。注意すべきなのは、鉄、ニッケル、ステンレスなどの強磁性体である。
そのため貴金属性の結婚指輪などで、どうしても外すことができなくなっている装飾品に関しては、装着したままMRI検査を受けるケースも珍しくはない。けれども、ネックレスのように着脱が容易な装飾品に関しては、できるだけ外した状態でMRI検査を受けることが望ましいといえる。
金属製品を破壊する可能性がある
MRI検査で禁忌となっている代表例として、心臓のペースメーカーを挙げることができる。これらは単に、検査結果のデータにノイズが混ざるという理由だけで、禁忌となっているわけではない。MRIの磁場によって、ペースメーカーそのものが破壊されてしまう可能性があるからだ。これは命にも関わることなので、禁忌となっている。
同様に、腕時計などの装飾品も破壊される可能性があるため、検査時は可能な限り外すことが求められている。その他、金属製の装飾品がもたらす弊害として、MRI装置への吸着現象がある。MRI装置を壊してしまうこともある。実際、臨床の現場ではそうした事例が起こっている。

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)