人間ドックでCT検査やMRI検査を受ける際、患部の明確な画像を得るために「造影剤」を投与することがある。このとき、まれに起こるのが「造影剤アレルギー」だ。造影剤アレルギーの症状や発症リスク、治療法などを紹介する。
造影剤はどんな検査で使われる?
造影剤は、画像診断検査の質を向上させるために使う薬剤だ。画像にコントラストをつけ、特定の臓器を強調する目的で患者に投与する。
造影剤には「ヨード系造影剤」「ガドリニウム系造影剤」「硫酸バリウム製剤(一般的にはバリウムと呼ばれる)」などの種類があり、検査によって薬剤、投与方法が異なる。造影剤を投与することのあるおもな検査と薬剤の種類、基本的な投与方法は以下の通りだ。
- CT検査:「ヨード系造影剤」を静脈注射で投与
- MRI検査:「ガドリニウム系造影剤」を静脈注射で投与
- 血管造影検査:「ヨード系造影剤」をカテーテルで動脈内(一部静脈)に投与
- 胃や大腸の消化管造影検査:「硫酸バリウム製剤」を経口投与
CT検査やMRI検査による造影剤アレルギーの症状
造影剤検査で使われる薬剤は安全性が確立されているものではあるが、まれに造影剤アレルギーの症状が出ることがある。
なお、CT検査で使われる「ヨード系造影剤」よりも、MRI検査で使われる「ガドリニウム製剤」の方が造影剤アレルギーの発生頻度は低いとされるが、下記の症状(とくに重度)が見られた場合はすぐに医療施設を受診しよう。
軽度のアレルギー症状
- じんましん、皮疹、湿疹
- 皮膚のかゆみ
- 吐き気、嘔吐
- 頭痛
- くしゃみ
- 熱感(注入時)
- 冷や汗 など
重度のアレルギー症状
- 呼吸困難
- 血圧低下
- 意識障害
- アナフィラキシーショックによる心停止 など
重度の造影剤アレルギーが起きることは、非常にまれだ。しかしアナフィラキシーショックを起こした場合、呼吸困難や心停止によって死に至る恐れがある。気になる症状があるときは、念のため医療施設に相談したほうがいいだろう。
喘息やアレルギーのある人は造影剤に注意
下記に該当する人は造影剤アレルギーが起こる可能性が高いため、投与前に医師に確認をとる必要がある。
- 気管支喘息の既往がある(現在症状があり、治療中)
- アレルギー症状の既往がある
- 過去に造影剤で副作用を起こした
腎機能障害、糖尿病の人は「CT検査の造影剤」に注意
CT検査時に使われるヨード系造影剤の投与は、下記に該当する人も注意が必要だ。
- 腎機能障害がある
- 糖尿病の薬(ビグアナイド系)を服用中
通常、ヨード系造影剤は投与後24時間で尿を介してほぼ排泄されるので、腎機能が正常であれば腎臓に影響を及ぼす可能性はない。しかし腎機能が低下した人にヨード系造影剤を投与すると、「造影剤腎症」(腎機能の低下や腎不全など)を起こす恐れがある。
また、ビグアナイド系の糖尿病薬を服用中の人は、「乳酸アシドーシス」を生じるリスクがあるため、ヨード系造影剤を使用する前後48時間の休薬が原則となっている。
上記はアレルギー症状ではないが、造影剤を使った検査では十分注意したい。
腎機能障害がある人は「MRI検査の造影剤」にも注意
腎機能が著しく低い人(おもに腎不全患者)は、CT検査だけでなく、MRI検査でも注意が必要だ。
MRI検査で使われる「ガドリニウム系造影剤」が体内に長く留まった場合、まれに「腎性全身性線維症」を引き起こすことがある。発症すると、造影剤の投与から数日~数ヶ月、数年後に下記のような症状が見られる。
- 皮膚の痛みやかゆみ
- 四肢の皮膚の腫れ、発赤
- (進行した場合)皮膚の硬化
- (進行した場合)四肢関節の拘縮
腎性全身性線維症は現時点で確立された治療法がなく、進行すると歩行困難など日常生活にも支障をきたす。最終的には皮膚以外の臓器にも線維化が広がり、約20~30%の割合で死に至るとされているため、予防が極めて重要になってくる。
軽度の造影剤アレルギーでも治療が必要なことも
軽度の造影剤アレルギーは、自然に軽快することがほとんどだ。ただ、程度によっては薬での治療が必要になることもある。重度の症状が見られる場合はもちろんだが、軽度の症状(くしゃみやじんましん、吐き気など)であっても長い期間続いているようであれば、すぐに医療施設を受診しよう。
症状によって治療法は異なるが、造影剤アレルギーが疑われる場合は血圧測定や動脈血酸素分圧濃度測定を実施し、その後の対応を検討することになる。じんましんなどの皮膚症状のみの場合は、抗ヒスタミン薬の内服を、また吐き気などの消化器症状のみの場合は抗ヒスタミン薬の点滴注射を行い、経過観察をするのが一般的だ。
重度の造影剤アレルギーの治療法
呼吸困難や血圧低下、心停止などのアナフィラキシーショックの症状が出ている場合は、基本的に大腿部中央にアドレナリンの筋肉注射を行う。その後もショック症状や血圧低下が見られる場合は、生理食塩水の輸液やステロイド薬の点滴注射を行う。
同時に気道確保の準備をするが、気道確保が困難な場合は気管切開などの処置がとられることもある。
ただし、造影剤でアナフィラキシーショックを起こした場合、医療施設で速やかに治療を行ったとしても命を落とすケースもある。喘息や腎機能障害があるなど「発症リスクが高いと想定される人」は事前に医師に相談し、造影剤アレルギーを起こさないよう予防することが重要だ。

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)