2015.10.8

第2回 心の赴くまま、深く、しなやかな人生を/岡本美鈴さん(フリーダイバー)

フリーダイバー 岡本美鈴 さん

生死の境をさまよった末の、人生の転機

――岡本さんは、20代のころに大病を患われた経験があるそうですね。

フリーダイバー 岡本美鈴さんはい。1996年に、卵巣腫瘍を患いました。なんと5キロの腫瘍がおなかの中にあったんです。でも当時私は、病気なんて他人事、自分は絶対に病気になんかならないと思っていました。だから、ちょっと太ったかな…程度に思うだけで、まったく気がつかなかったんです。わかったときにはもう手遅れ寸前。幸い手術で助かりましたが、「明日の命の保障なんて誰にもない」ということを思い知らされましたね。

――それをきっかけに、やはり健康への意識は変わりましたか?

自分が病気になりやすい体質だということを知りましたので、それ以降は、毎年必ずがん検診やPET検査を受けています。結果が出るまではいつもドキドキですね。年に一度でも安心はできず、ちょっとでも気になることがあれば、すぐに病院に行くようにしています。病気に対しては、怖がりと思われるくらい慎重になっています。

――その後、岡本さんの人生をガラリと変える“フリーダイビング”との出合いがあったのですよね。

1999年に小笠原へ旅行したとき、イルカと自由に泳ぐスキンダイバーを見て憧れを抱き、私もいつかは…と夢に描くようになりました。そんな折に、偶然にも日本代表のフリーダイバーの方との出会いがあり、「イルカと一緒に泳ぐためにはフリーダイビングを身につけるといい」とアドバイスを受けたのです。また一方で、国際大会の写真やDVDを見せていただいたのですが、選手たちの人間離れした姿や、想像を超える能力、そして何よりこのスポーツの美しさに、すっかり魅了されてしまったんですね。当時私は既に30歳、水泳も25m泳ぐのがやっとのかなづちだったのですが、それにもかかわらず、イルカと泳ぎたい、このスポーツをやってみたいという一心で、フリーダイビングを始めました。いきなり競技プログラムを選択したのは、泳げないからこそ、人より負荷をかけることでやっと人並みになれるだろうという思いから。それがこんな未来につながるとは夢にも思っていませんでした。病気をして以来、自分に素直に、悔いなく生きることをモットーにしてきたからこその一歩だったのだと思います。

フリーダイビングが与えてくれたもの

――フリーダイビングというスポーツには、死と隣り合わせのストイックなイメージがあるのですが。

フリーダイバー 岡本美鈴さん長い間息を止め、我慢と試練を味わうようなスポーツに思われがちですが、まったくそんなことはありません。心身を極限までリラックスさせることで生まれる気持ちのよい時間を、味わい、延ばすスポーツなのです。もちろん、一歩間違えれば即、死につながるのも事実。ですから、技術はもちろん、自分の心をコントロールする強いメンタルが必要です。とくに大事なのが、欲を制すること。息を止めていると、自分の身体の中に起こる微細な変化を敏感に感じられるようになるのですが、記録のために…とそれに気づかぬふりをしてがんばってしまったり、身体の声を聞き逃してしまったりすると、事故につながる。そういった意味では、世界のフリーダイビング選手の最高齢が70代であるように、年を重ねているからこそのメンタルの強さが活きるスポーツでもあります。

――岡本さんは、フリーダイビングに怖さを感じることはないのですか?

海に潜るときはやっぱり怖いです。競技では苦しいゾーンもありますからね。弱い自分、逃げ出したい自分を抑え、平常心を保つようにしています。波立ちがなくなれば、底は見えるものですから。そのためにも、日頃から常に、一歩引いて自分を客観視し、心を乱すような物事を静観することを心がけています。ヨガやスキューバダイビングを学んでインストラクターの資格を取ったことも、メンタルの強化には役立ったと思いますね。

――健康管理のために行っていることはありますか?

ノートに毎日の生活記録をつけています。1日の流れ、食事の内容、トイレの回数、睡眠時間、その日の体調などをすべてメモして、日々の体調管理に役立てています。食事については、食べたいものを食べるようにしていますね。海で紫外線をたくさん浴びるとビタミンCが欲しくなり、身体が疲れると肉が恋しくなり、潜ったあとは炭水化物が食べたくなる。バランスをとりながらも、身体が欲するものを好きなだけ食べています。ひとつだけ、毎日続けて飲んでいるのが、八丈島産の明日葉茶。飲み始めてからというもの、風邪をひかなくなりましたし、世界大会期間中などはどうしても野菜不足になるため、これで補うようにしています。

――身体のメンテナンスには、いろいろなグッズを活用されているそうですね。

温泉地で見つけた木製のマッサージローラーや、ツボ押しボールなどは、世界中どこに行くときも持ち歩き、飛行機の中でもホテルでも、時間があれば気になるところをマッサージしています。身体の痛みは不安につながるので、大会前はとくに、疲労除去が大切になるのです。ほかにも、アスリート向けに開発された身体のコンディショニング器具など、人に勧められたものや、よいと思うものは、積極的に取り入れています。

――岡本さんにとって、フリーダイビングとは?

フリーダイビングは、引き算のスポーツだと思います。海の中では身ひとつ。何も持って行けないですからね。だからこそ、素に戻れるというか、人間に戻れるのです。私は慎重派なので、記録の更新も小刻みに少しずつですが、今、やりたいことができているのを実感していますし、ずっと元気に楽しみ続けたいので、これからも、全力で取り組んでいきたいと思っています。

▼1枚のフィンに両足をそろえて入れる「モノフィン」。推進力が強いため、プロの間ではこれを使うのが主流だそう。
1枚のフィンに両足をそろえて入れる「モノフィン」。推進力が強いため、プロの間ではこれを使うのが主流だそう。

▼健康管理のための生活記録ノートは、1ページ1日分。時間の経過ごとのメモがびっしり。
健康管理のための生活記録ノートは、1ページ1日分。時間の経過ごとのメモがびっしり。


Colorda編集部