日本人は世界的にみて睡眠不足
毎日、規則正しく睡眠をとれているだろうか? 日本人女性の平均睡眠時間は7時間33分、日本人男性の平均睡眠時間は7時間52分で世界的にみても短く、平日、週末問わず、慢性的な睡眠不足が起きているといわれている(※)。
睡眠不足や睡眠の質の低下は、日中の眠気や集中力低下、意欲低下、記憶力低下などを引き起こすだけでなく、自律神経やホルモン分泌の乱れを引き起こす。また、生活習慣病の疾患リスクを高めたり悪化させたりするため注意が必要だ。
厚生労働省が発表「健康づくりのための睡眠指針2014」
睡眠と健康が深く関わっていることを受け、厚生労働省も「健康づくりのための睡眠指針2014」を発表した。このなかで「睡眠12箇条」が挙げられているので紹介しよう。
- 良い睡眠で、からだもこころも健康に。
- 適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。
- 良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。
- 睡眠による休養感は、こころの健康に重要です。
- 年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を。
- 良い睡眠のためには、環境づくりも重要です。
- 若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。
- 勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。
- 熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。
- 眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない。
- いつもと違う睡眠には、要注意。
- 眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。
どれも理想的なことが書かれているが、睡眠の重要性に関わる項目をいくつか深掘りしていく。
心身の疲れを回復する、睡眠の働き
睡眠時には、成長を促す成長ホルモンが大量に分泌される。このホルモンは発育のカギを握るのはもちろん、代謝促進や血糖値の上昇、自分自身の内部環境を一定に保ち生存を維持しようとする機能(これを恒常性という)の維持や細胞の再生にも関わっているため、寝ている間にヒトは肉体のダメージの回復や、疲労回復を行っている。また、睡眠は精神的なストレスへの耐久力を高める役割もあり、眠ることは心身の疲れを回復させる。不眠がうつ病などの心の病気につながることや、日中の眠気が人的ミスから事故につながることも明らかになってこのため、「1.良い睡眠で、からだもこころも健康に。」と厚生労働省はうたっているのだ。
睡眠不足で食欲増加、糖尿病へ
睡眠不足が生活習慣病のリスクを高めたり、悪化させたりすることは先に述べたが、具体的な事例として、医学雑誌『PLOS Medicine』に発表された研究結果(2004年)を紹介しよう。
当研究では、食欲を抑えるホルモンであるレプチンと、食欲を高めるホルモンのグレリンの数値を比較。1日10時間眠った日と比べ、たった2日間、1日4時間しか眠れなかっただけで、レプチンが減少し、グレリンが増加した。報告では、睡眠不足によって食欲が増大する可能性とそれによる肥満の可能性についても言及している。慢性的に睡眠不足になると、太るだけではなく、食欲が高まり糖尿病のリスクが高まっていくかもしれない。ほかにも、心筋梗塞や狭心症など多くの疾患リスクが高まることが指摘されている。これが、厚生労働省の掲げる「3.良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。」の意図と考えられる。
睡眠は健康寿命を延ばすカギ
睡眠時間の確保と、睡眠の質を高めることが、健康寿命を延ばすといっても過言ではない。忙しいビジネスパーソンにとって難しい課題だが、少しでも改善できるように心がけていくべきテーマだ。
※ e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」(厚生労働省)

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)