2015.8.13

慢性便秘が原因で死亡も!? あなどれない便秘の治療法最前線

便秘が引き起こす、死に至る病気とは?

便秘便秘については、環境や体質といった個人差が大きく、明確な定義はないが、日本内科学会は、「「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」を指す。そして、排便回数が減少し、排便困難な状態が6ヶ月以上経過すると、慢性便秘症に分類される。厚生労働省の「平成23年度患者調査」によると、便秘で外来・入院した患者数は18万2,000人。潜在的な患者数は、国内で1,000万人を越えると見られている。

慢性便秘が原因で起きる、最も恐ろしい疾患の一つが、腸閉塞だ。長期間、腸内にとどまった便は水分が過剰に吸収され、硬く固まり、排便が困難になる。この便が腸管をふさぎ、激しい腹痛や嘔吐といった症状を引き起こす。場合によっては死に至る病気なので注意が必要だ。

従来の便秘薬は、飲み続けると効かなくなる?

便秘の治療には、生活習慣の改善とともに、緩下剤である酸化マグネシウムや、大腸刺激性下剤であるセンノシドやセンナを使用した薬物治療が行われてきた。

しかし、酸化マグネシウムはほかの薬剤(抗生物質・骨粗鬆症薬など)の効果を減弱させる可能性があり、とくに腎機能障害や心機能障害を持つ患者には慎重に投与する必要があるなど、医師の判断が必要だ。また、センノシドやセンナは長期連用により薬剤耐性、習慣性を生じる可能性があり、問題も多い。

薬剤耐性ができると、薬の効果が実感できなくなり、服薬量が増加。自然な排便はますます困難になる。さらに血液中のカリウムが減少、排便の力が弱り、また服薬量が増えるという悪循環が生まれる。

32年振りに便秘治療の新薬現る!

2012年、日本で開発された初の慢性便秘症の処方薬、ルビプロストン(商品名:アミティーザ)が発売された。現在は、イギリス、スイスでも認可され、2015年4月アメリカでも認可が下り、世界的に慢性便秘症の適応が承認され出した。

小腸には30種類以上のクロライドチャネルと呼ばれる腸液の分泌に関わる受容体がある。このクロライドチャネルのうち、小腸上皮に局在するCIC-2(タイプ2クロライドイオンチャネル)を活性化させることで、小腸内への水分分泌を促進させる。便を柔らかくし、便の水分含有量を増加させることにより、便秘を改善する薬がルビプロストンだ。

ルビプロストンの臨床試験では、24時間以内に約60~75%の患者が自発的な排便を行えた。約1年間の長期第3相臨床試験では、長期間の投与で効果が減弱せず、薬剤に対する耐性が生じにくいことを確認できた。

一方で、下痢(30%)や嘔気や悪心(23%)といった副作用があることも事実だ。また、妊婦ヘの投与は禁忌となっている。しかし、重度の事象は少なく、症状に応じて適宜減量・休薬を行うことで対処できるため、ルビプロストンが慢性便秘症の治療の幅を広げる薬として期待を集めている。

従来の便秘薬を使用して効果が求められない場合や、慢性的な便秘に悩んでいる場合は、医師の診察を受け、ルピプロストンの投薬を相談してみてはいかがだろうか。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部