2015.8.10

晩婚化が原因!? 増え続ける不妊症治療

不妊症治療する患者が激増! その背景は?

不妊治療世界保健機関(World Health Organization: WHO)が示す不妊症の定義は、「健康な男女が妊娠を希望し性生活を行っているのにも関わらず、一定期間妊娠しない場合」としている。日本産科婦人科学会は不妊と認定する期間を、今までは2年間と定義していたが、平成28年8月より、WHOに合わせ1年に短縮した。
日本生殖医学会によると、不妊症の比率は約9%と推定される。また、厚生労働省の「不妊治療をめぐる現状」によると平成23年の総出生児中、体外受精による出生児数の割合は2.7%。つまり、37人に1人が体外受精による乳児だ。

この背景には晩婚化による出産年齢の高齢化がある。母親が35歳以上の出産割合は、平成12年の11.9%から平成23年は24.7%と激増。女性の妊娠できる能力は20歳代前半がピークで、20代後半から衰え始め、30代後半で急速に低下。卵子の老化と減少がおもな原因で、自然妊娠が年齢を重ねるごとに難しくなるのだ。

47歳の体外受精による費用は、2億3,000万円!?

不妊症の治療にはおもに4種類ある。タイミング法、排卵誘発法、人工授精、体外受精だ。通常、段階的に治療が進む。

タイミング法は、排卵日に性生活を営む方法で、排卵誘発法は、良質の排卵を誘発するために経口薬や注射で排卵誘発剤を投与する方法だ。この2つは健康保険が適応されるため、1回の治療費は数千円程度で、比較的、治療を受けやすい。

一方、人工授精と体外受精は保険適応外の治療法だ。人工授精は人為的に精子を子宮内に注入する方法で、1回につき1~3万円程度の自己負担費用が発生する。体外受精は体外で受精卵を作り、体内に戻す方法で、この受精卵を作る過程で顕微授精を行う場合があり、高度な技術が必要となる。顕微授精とは、顕微鏡下で、細いガラス管を用いて精子を卵子に注入し受精させる方法だ。このため、体外受精は1回20万~100万円と高額になる。

国立成育医療研究センター不妊診療科医長・齊藤英和氏によると、各年齢別の体外受精により1児を出生するためにかかる医療費の平均は、30代前半で約150万円、40歳で372万円、45歳で3,704万円、47歳で2億3,000万円だという。高齢化するほど治療費が高額になるのは、体外受精の成功率の低さを表している。

原因特定が不妊症治療の近道

不妊症の原因は前述のとおり、卵子の老化や減少があげられるが、男性に原因がある場合もある。精子の数が乏しい乏精子症や、無精子症、精子無力症などだ。最近の調査では、男性のみあるいは男性にも要因のある不妊症は50%とも言われる。いずれにせよ、原因を特定するために、不妊治療をはじめる際は、夫婦で診察を受ける必要がある。

では不妊治療はどこで行うのが適切なのだろうか。結論から言うと不妊外来に出向いてほしい。なぜならば、通常の産婦人科の場合、原因特定が難しくタイミング法を続けがちだ。また、培養士が不在のため、人工授精や体外受精などの治療を行えないからだ。

原因によってはタイミング法などではなく、最初から体外授精を行う場合もある。月に1回しか排卵は行われないので、無駄な治療期間は成功率の低下にもつながりかねない。早い段階で原因特定をして適切な治療を行うことが成功への近道だ。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部