2015.8.20

夏こそ注意! 入浴中の急死!?

交通事故死とほぼ同数!? 入浴中の溺死

入浴中の急死厚生労働省の人口動態統計年報によると、2014年の浴槽内での溺死者数は4,866人。同年の交通事故死亡者数は4,113人だ。入浴中の体調の急変がいかに多いかがうかがえる。また、東京都健康長寿医療センター研究所(東京都老人総合研究所)によると、2011年に入浴中に心肺停止し救急搬送された人数は、年間約1万7,000人 。同研究所の別の報告書によれば、救命率は1%以下だという。

入浴中の溺死は熱中症が原因!?

なぜ、入浴中に心肺停止するのか。その原因は、日本人の熱い湯に肩までつかる習慣にあるとされてきた。入浴時、外気温と熱い湯との激しい温度差が、急激な血圧の変動を起こし、心筋梗塞や脳出血、脳梗塞などによる突然死を引き起こすことが、おもな原因と考えられてきたのだ。

しかし、近年では高温浴による体温上昇が失神やショック、意識障害をもたらし、入浴中の死亡事故の原因となる可能性が指摘されている。つまり、入浴事故は熱中症の範疇に含まれるようになったのだ。入浴中に発生する一過性の意識障害が初期症状で、救助が遅れると体温がさらに上昇し、血圧低下や溺没により心肺停止に至る。

入浴中の睡魔は失神寸前のシグナル

実は、高温浴を好む人が多いのには理由がある。高温の湯に耐えることで、脳からβエンドルフィンが分泌され、幸福感に包まれるからだ。このβエンドルフィンは、モルヒネの6.5倍にあたる鎮痛効果がある。そのため、高温の湯であったとしても、やせ我慢をして入浴している感覚はなく、気持ちよく感じるのだ。

だが、体内では急激な血圧変動が起こっている。入浴開始とともに急激に血圧が上昇し、体温が上昇すると血管が拡張され血圧が急降下する。この急激な血圧低下によって、脳への血液の循環量が減少し、意識を失い、熱失神の状態になる。βエンドルフィンを出しながら熱失神になると、感覚的には「気持ちよくなって、気がついたら寝ていた」と感じてしまうが、入浴中の睡魔は意識障害の可能性が高く、危険のシグナルだということを忘れてはならない。

若年層も必要! 熱中症対策

熱中症は高温多湿の環境で起こりやすく、入浴中はこの条件に適合する。通常、発汗により体温調節するが、入浴中は発汗による体温低下にも限界がある。

入浴中の熱中症を予防するためには、入浴前後に十分な水分、塩分の補給をすること、38度~40度のぬるめのお湯で肩までつからず、長湯をしないことが大切だ。また、血圧下降の原因となるような飲酒や食後の入浴や、入浴中の急激な起立を避けることで、入浴時のリスクを少なくできる。熱中症リスクは高齢者だけはもちろん、若年層にもあてはまる。毎日の入浴だからこそ、安全を意識し、熱中症予防することが必要ではないだろうか。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部