そのもの忘れは生理的? 病的?
だれしも日常生活のなかで、もの忘れをすることはある。しかし、それが頻繁に起こると危機意識が芽生える。とくに若いうちからもの忘れが頻発すると、自分は病気なのではないかと心配になるものである。
実際、病気に由来するもの忘れもあるため、心配な人はまず検査を受けることを勧めたい。生理的なものでは身体に異常は見つからず、病的なものではMRIや記憶力テストなどで異常が見つかる。おもに、うつ病や認知症などがその背景にある。
外傷や精神疾患に由来するもの忘れ
もの忘れがひどく、頭部を強く打った経験がある場合には、まず頭部CT検査を受けておきたい。慢性硬膜下血腫は、頭部外傷の1〜2ヶ月後に、頭部の頭蓋骨の下にある脳を覆っている硬膜と脳との隙間に血液が貯まることで生じる疾患である。CTを撮影することで、こうした頭部の出血の跡や脳腫瘍などを発見することができる。外科処置によって病変を取り除くことで、病態が改善されることがある。
次に疑われるのが、うつ病によるもの忘れだ。うつ病にかかると脳機能が低下し、記憶力や集中力も下がる。その結果、もの忘れが頻発する。うつ病の検査は問診がベースとなっている。うつ病と診断された場合には、抗うつ薬などの薬物療法によって、もの忘れの症状も大きく改善することが多い。
脳血管障害や神経の変性に由来するもの忘れ
頭部への外傷やうつ病がもの忘れの原因ではない場合、認知症が疑われる。認知症の検査では、まず「長谷川式簡易知能評価スケール」というテストが行われる。記憶力テストのようなもので、10分程度で終わる。30点中20点以下の場合は、認知症が疑われるため、精密検査を受けることが勧められる。MRIによって脳動脈硬化症のような異常が見つかれば、脳血管性認知症が疑われる。神経組織の変性のような異常所見が見つかればアルツハイマー型認知症が疑われる。
このように、一言でもの忘れといっても、その背景にはさまざまな原因が潜んでいるのだ。たかがもの忘れと軽視せず、早めの対応が求められる。

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)