罹患率は高いが死亡数は低い!? 乳がんに有効な検査とは
現在のようにマンモグラフィー検査が普及しつつあるのも、乳がんの罹患率は高い。実際、日本人女性の部位別がん罹患率では、乳房が1位となることが多い。一方、乳がんによる死亡数は少なく、女性のがんによる死亡数は男性同様、大腸や胃、肺が上位を占めている。これは乳がんの性質と治療の有効性が関係している。また、乳がん検診によって早期発見早期治療を実現できていることが大きい。そこで気になるのが、マンモグラフィー検査と乳腺エコー検査の違いである。
見えるものが違う! 石灰化物か、腫瘍か
乳腺組織の異常を調べる方法としては、おもにマンモグラフィー検査と乳腺エコー検査の2種類が挙げられる。どちらも乳腺組織に生じる病変を検出する検査であるが、そもそもまず、見えるものが違う。
マンモグラフィー検査は、乳房専用のX線検査である。乳腺組織の石灰化の描出に優れているため、しこりを作らないおとなしい早期乳がんの発見に有用だが、軟組織の病変は検出できない。一方、乳腺エコー検査は、腫瘍などの軟組織の病変を検出するのが得意である。石灰化物も腫瘍も、どちらも乳がんを早期発見するうえで、重要な症状だ。マンモグラフィー検査と乳腺エコー検査に優劣をつけることはできない。
静止画と動画という違い
マンモグラフィー検査と乳腺エコー検査の違いには、静止画か、動画かという違いが挙げられる。マンモグラフィー検査はX線画像であり、撮影されたものから読み取れる情報は決まっている。
一方、乳腺エコー検査は、プローブと呼ばれる器具を、検査技師が動かしながら病変を探す。処置の最中どのようにプローブを動かし、何を見ようとするのかが術者によって大きく異なる。また、動画であるため、見える情報が絶えず変化している。マンモグラフィーと比較して、情報量も多く、施術者の技量にも影響される。
使い分けが必要? 加齢で変化する乳腺組織の構成
乳腺組織は加齢により退縮し、脂肪組織の割合が増えてくる。乳腺エコー検査は軟組織の診断を得意としているが、脂肪組織が増えてしまうと、腫瘤との見分けがつきにくくなる。つまり、年齢が上がるほど乳腺エコー検査の有効性は低下する傾向がある。マンモグラフィーは脂肪などの軟組織の影響を受けにくい検査であるため、熟年者に適しているといえる。
逆にマンモグラフィーは、乳腺が発達している20代や30代は、画像に乳腺が映り込み石灰化物が見つかりにくい。
このように、マンモグラフィー検査と乳腺エコー検査には、検出できるもの、術者の技量への依存度、年齢による有効性の違いなどが見られる。どちらかが優れているとは言い切れないケースに応じて使い分ける必要がある。両方とも受けることが好ましいが、1年おきに違う検査を受けるなど工夫をしたい。

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)