2015.11.5

レーシック手術ができない人の希望! ICL手術とは

翌日には効果を実感できるICL手術

瞳ICL(Implantable Collamer Lens:アイシーエル)は、小さなレンズを目の中に移植して近視や乱視を矯正し、裸眼視力を回復させる新しい視力矯正手術だ。これは白内障の手術を応用している。白内障手術では水晶体を取り除くが、ICLは水晶体を残したまま、視力を矯正するための眼内レンズを挿入する。レンズを挿入するのは目の中の黒目(虹彩)の裏、水晶体の前の後房と呼ばれる位置だ。瞳孔機能に影響しなく、角膜内皮障害のリスクが少ない上、審美性が良い。

ICLは、マイナス電荷を帯びているコラマーという素材からできており、タンパク質や細胞などの粒子を反発し寄せつけないため、炎症が起こりにくく、長期間眼内にて安定する。また、不快感や物の見えづらさを生じさせにくいノングレア特性があり、手術後のまぶしさが少ないレンズだ。性状からは、眼内移植型コンタクトレンズとも言われている。

手術は10分~15分程度。切開創は3ミリ程度、点眼のみで自然治癒するため、通常は縫合する必要もない。日帰り手術になり、次の日から効果を実感できる。

海外では20年以上の歴史があり、現在ではヨーロッパ諸国、アメリカ、韓国、中国など世界各国で薬事承認されている。日本では2003年に臨床試験が開始され、2010年には高度管理医療機器「有水晶体後房レンズ」として、近視矯正用レンズが、2011年には乱視矯正も行えるトーリックレンズが厚生労働省から承認を受けている。近年の急速な普及により、2016年3月現在で、全世界で60万件以上のICL手術が施行されている。

ICLはレーシックができない人でも可能!?

ICLは、適応範囲が広くレーシックでは適応外となる強度近視の人や、角膜が薄い人にも適応が可能だ。また、移植したレンズは取り出して元の状態に戻せる。これはレーシックとの大きな違いだ。レーシック手術は角膜を削るため、元の状態に戻せない。この可逆性は大きなメリットだ。というのも、たとえば術後、矯正の度数が強すぎて弱くしたい場合、レーシックは対応できないがICLはレンズを交換することで対応できる。

後遺症の発症率は0.4%

2013年12月4日に消費者庁が発表した資料によると、レーシック手術を受けた消費者の4割以上が症状や不具合を訴えている。夜間に光がにじんで見えるハロー、まぶしく見えるグレア、不正乱視、ステロイド薬が原因で眼圧が上がり、その結果緑内障になってしまうステロイド緑内障、ドライアイなどの術後合併症があるが、ICLでは、これらの症状を避けられるという。後房手術は水晶体に近いことにより、術後白内障の発生のリスクが高くなるが、その発症率は従来型ICLで0.4%だ。

もしも術後白内障になった場合は、ICLを取り出すと目が術前の状態に戻るので、白内障用眼内レンズの度数決定は通常の計算式で問題なく行える。だが、レーシックを受けた場合、通常の計算式だけでは目標視力と大きなずれが生じる。眼内レンズの度数を正しく決定するにはレーシックを受ける前に行った視力検査データが必要になる。

最先端! ホールICLは日本発!

従来ICLを装着する際、緑内障予防目的で、虹彩に穴をあけ、眼の中の房水が循環できるようにしていた。ただ、非常にまれではあるが、虹彩にあけた穴から光が入り、眼を閉じていても穴から入る光を感じる場合があった。

北里大学眼科ではこの問題を解決すべく、2007年よりSTAAR社協力のもと新たな改良タイプ「ホールICL」の開発を行った。従来のICL中央に0.36mmの小さな穴(ホール)をあけることで、虹彩切除の必要はなく、自然に近い房水動態を可能とした。従来のICLと比較し、中央の穴による視機能の低下はほとんどみられない。また水晶体前面の房水動態を改善することで従来より白内障のリスク軽減が期待される。

基礎的実験、動物実験、臨床治験を経て、2011年 ICL V4c (KS-AP)としてEU加盟国へ輸出する際に必要な、安全基準条件であるCEマークを取得。ヨーロッパでは、すでにICL手術の約6割がホールICLで行われており、日本では2014年4月、厚生労働省より認可された。

眼科の手術としては、眼の中に眼内レンズを入れるICL手術のほうが、眼の表面にある角膜をレーザーで削るレーシックやPRKよりも難度は高い。より、安全に行うのであれば白内障手術に精通した医師に施術してもらうのがよいだろう。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部