「いつまでも若々しく、健康でありたい」という願い。
実は昨今、アンチエイジング研究が進み、
その願いを叶える夢のようなメソッドが続々と明らかになってきている。
今回は、運動に注目。働き盛り、忙しい毎日を過ごしている人にこそ知ってほしい、
老けない、ボケない、病気にならない...そんな運動法を紹介する。

2016.10.6

90歳を過ぎても筋トレを! 健康で自分らしい生活を送るために

80歳でエベレスト登頂に成功したのはなぜか?

Young woman doing belly crunch in fitness studio
2013年5月、三浦雄一郎さんは80歳の最高齢でエベレスト登頂に成功した。日本人男性の平均寿命が79歳なので、多くの日本人が元気で高齢期を最後までまっとうできる可能性を示唆した。高齢期に寝たきりの介護状態で何年も過ごすより、前日まで元気に暮らし“ピンピンコロリ”で亡くなることができれば日本の医療費の削減にも貢献するだろう。

しかし、80歳でエベレストに登頂するためにはたゆまぬ努力も必要だ。実際に三浦さんは今回のエベレスト遠征前には、ロッククライミングの練習を重ねていた。三浦さんが今回アタックしたネパール側の最後の難所といわれるヒラリーステップが地球温暖化の影響で岩肌がむき出しになっている可能性があったからだ。80歳の高齢者が8000メートルを超えるデスゾーンと呼ばれる高所で絶壁の岩場をよじ上れるのだから、人間の筋力は鍛えれば加齢による筋力低下(サルコペニア)を克服できるということだろう。では人間は筋力を維持できたら何歳までスポーツを楽しむことができるのだろうか。

筋力さえあれば、100歳でもスキーを楽しめる

三浦さんのお父様だったプロスキーヤーの三浦敬三さんは、99歳でモンブランを滑降し、100歳で立山での山スキーを楽しんでいた。リフトもない雪山の斜面を、スキー板を肩にかついで登っていく。登山のための筋力も保持されていたが、滑降するとき中腰を保持する下半身の筋力も70歳代の筋力を維持していたことが東京都老人総合研究所での筋力測定で明らかとなった。

優秀な遺伝子を持っているので三浦家は特別なのだという可能性は否定できないが、雄一郎さんや敬三さんは毎日トレーニングして肉体を鍛錬していたことも事実だ。それではトレーニングすれば、誰でも三浦さんのようにスポーツを楽しむことができるのだろうか?

90歳を過ぎても筋トレが有効

スペインのナバラ公立大学理学療法学部のミケル・イズクイエルド教授らの研究グループは、90歳を過ぎても筋トレにより筋力が増強し、転倒予防効果があることを一般高齢者で調査し、医学雑誌『加齢』に発表し話題を呼んでいる。

イズクイエルド教授は、91歳から96歳までの高齢者24名を11名の実験群と13名の対照群に分け、実験群の高齢者には週に2回、筋トレや平衡性改善運動を組み合わせた高齢者用のエクササイズプログラムを12週間にわたり指導した。筋トレでは最大筋力の40〜50%にあたる負荷を8〜10回反復するプログラムを実施した。一方、対照群には1日に30分のストレッチなどマシンを使わない軽いエクササイズを週に4日間指導した。12週間後、上肢・下肢の筋力、歩行速度、椅子から立ち上がるのに要する時間、平衡感覚、転倒頻度を調べた。

その結果、実験群は上肢の筋力が平均11%、下肢の筋力が平均20%増強していたのに対し、対照群の筋力は上肢で平均18%、下肢で平均14%低下していた。興味深いことに実験群の大腿四頭筋のCTスキャン像で脂肪浸潤の減少が確認された。つまり、筋トレにより筋肉量が増加して筋力が増強しただけではなく、メタボ(筋肉における代謝)も改善していたのである。

筋トレが、身体の衰弱リスクを減らす

実験群では歩行速度が増加、平衡感覚機能が改善し転倒回数が減少していた。高齢期には骨・筋肉などの運動器機能、心血管機能、認知機能などが徐々に低下することが衰弱のリスクにつながるが、運動不足がこの衰弱のリスクを加速させる重大な要因であるとイズクイエルド教授は強調する。

今回のエクササイズプログラムは、脆弱な高齢者が健康を改善し生活の質を高めることに有益だろう。多くの高齢者が三浦さんのように活動的な高齢期を過ごせるよう、今後高齢者に対しエクササイズプログラムを提供していきたいと考えている。


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Colorda編集部