2015.11.2

脂肪が主役! 最新の再生医療

お腹のにっくき脂肪が役立つ時代到来!

脂肪2000年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のDr. Hedrickは、腹部皮下脂肪に大量の幹細胞が含まれていることを発見した。脂肪由来幹細胞とは、脂肪細胞になる以外に、筋肉や骨・軟骨、血管などになることもできる「間葉系幹細胞」と呼ばれる多能性細胞である。

そもそも幹細胞とは、分裂して自分と同じ細胞を作る能力(自己複製能)と、別の種類の細胞に分化する能力を持ち、際限なく増殖できる細胞と定義されている。以前から骨髄に存在することは知られているが、骨髄から採取できる幹細胞には限りがあり、採取する際は全身麻酔が必要になるなど、患者の負担が大きい。脂肪由来幹細胞は、採取時の人体にかかる負担が少ないうえに、低コストで安全性が高いため利用価値は高い。

注入した脂肪由来幹細胞はがん化しない?

この脂肪由来幹細胞は、乳がん治療による乳房切除をはじめ、病気・事故などで欠損した部位の再建に有効だ。そして、注入した脂肪細胞ががん化するリスクも低いことも注目されている理由のひとつ。産業技術総合研究所創薬基盤研究部門の発表によると、傷の修復を促進するために脂肪由来幹細胞を創傷箇所に注入しても、3日後には消滅しており、がん化する心配がないとしている。しかも患部での短い滞在期間に炎症を抑える物質などを盛んに出して、治癒をサポートする働きが見られている。

さらに、同研究所の木田主任研究員が行った研究では、切断したマウスのアキレス腱に、脂肪からとった幹細胞を挟み込んで縫い合わせたところ、ただ縫い合わせたときに比べ、傷の治癒が2倍近く早く、その効果は腱や骨髄由来の幹細胞を使ったときより高いという結果が出ている。

高まる期待! アンチエイジングにも効果あり!?

皮膚のハリを保つコラーゲンやうるおいを保つヒアルロン酸を作るのは、表皮下の真皮層に存在する線維芽細胞だ。2015年6月、ロート製薬株式会社は、「ロートリサーチビレッジ京都」で研究を行い、脂肪由来幹細胞がコラーゲン線維を形成することを確認した。

同社は、皮膚の下にある脂肪層中の脂肪由来幹細胞を刺激し、真皮に呼び寄せて皮膚の若々しさの維持に働かせることができないかという研究に着手。3種類の素材を組み合わせた「ステムSコンプレックス」が濃度依存的に脂肪由来幹細胞の遊走を促進することが明らかになった。脂肪由来幹細胞の増殖を促進することで、よりコラーゲンの生成等の効果を得られることが判明したのだ。

今後、脂肪幹細胞は、美容分野における顔面の神経再生やシワやたるみといった見た目の改善への利用が考えられる。今まで邪魔に思っていた脂肪が、アンチエイジングに一役買う時代になったといえるだろう。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部