「お口は健康の源」

今、歯や口の健康が全身の健康に大きく影響を与えることが明らかになってきている。
肩こりや頭痛などの不調、心臓病や脳梗塞などの疾患は、口腔内の不健康からきているかも?
その最先端の研究結果や健康をキープする秘訣を、歯科医に直撃取材する。

2016.3.24

10秒間難なくかみしめられたら要注意! 頭痛、肩こり、イライラ…原因はTMD?

今回お話をうかがったのはこの先生

井手デンタルクリニック院長

井出デンタルクリニック院長
井出 徹(いで・とおる)医師
1955年、長野県佐久市生まれ。
1980年、神奈川歯科大学卒業。
2012年、「2012年版 日本の歯科100選」に選出。

プロファイル

「とにかく削らない」で有名な銀座の歯科医。原因不明の歯痛を訴える多くの「歯科難民」たちの積年の悩みにTMD(側頭下顎部障害)という症状が潜んでいるという視点から、既存の歯科の常識にとらわれることなく、エクササイズやストレッチなどの理学療法を加味した独自の連携治療で解消し続けている。著書に『歯科医が書いた 歯医者に行かなくてすむ本』『ちょっと待って その歯の痛み、8割は削らなくても治ります』がある。

井出デンタルクリニックhttp://ide-dental.info/

口内炎や口角炎が現れるときは、たいてい身体の調子が悪いとき。つまり人の不調は口腔内に現れやすいのだ。むし歯や歯周病ではない歯痛も同様。なんとその根本原因は姿勢にあるという。TMD(側頭下顎部障害)にいち早く注目し、歯科と内科、外科などの垣根を越えた診断で多くの患者に笑顔をもたらしている歯科医に、その真意について聞いた。

10秒間難なくかみしめられたら要注意! 頭痛、肩こり、イライラ…原因はTMD?

10秒間難なくかみしめられたら要注意! 頭痛、肩こり、イライラ…原因はTMD?上下の歯を合わせ、奥歯をグッとかみしめて10秒間数えてみてほしい。だんだん顎が苦しくなってきたら、それは健康な証拠。一方、なんの違和感もなくいくらでもかみしめていられるとしたら、側頭下顎部障害(TMD)が疑われるかもしれない。

側頭下顎部障害(TMD)、口を開けると顎関節に痛みや違和感がある、口を大きく開けられない、朝起きると顎がこわばって口が開きにくいなどの症状のことをいう。またそれに付随して、頭痛、首や肩のこり、耳の痛み(耳が詰まった感覚)などの諸症状も発生する。

そして現代人の多くが、同様の不調を日常的な悩みとして抱えている現実。つまり、現代人の肩こりや首こり、頭痛やイライラは、このTMDによるものかもしれないのだ。

口腔内トラブルと頭痛や肩こり、TMDの密接な関係

口腔内トラブルと頭痛や肩こり、TMDの密接な関係
TMDの原因は、顎の関節やかみ合わせのズレ、顎や首の筋肉疲労、ストレス、姿勢の悪さなどだといわれている。そして、このTMDと口腔内のトラブルに密接な関係性があると唱えているのが、歯科医の井出徹氏。「わたしは、患者さんの歯を診る前に、まずは姿勢や表情など、全身を観察することからはじめます」(井出医師)

井出氏のもとを訪れる患者の多くが、歯科難民と呼ばれる人々。むし歯や歯周病でなくても歯が痛い、よくかめないといった口腔内のトラブルを抱え、歯科を転々とした末に井出氏のところに辿り着く。そういった患者の診察を続けてきた結果わかったのが、TMDとの関係。「原因不明の口腔内トラブルに悩まされている人の多くに、併せて頭痛や肩こりなどの諸症状が。つまり、TMDが存在していたのです」(井出医師)

これらの患者に共通して見られるのが、冒頭に記した“かみしめ”。本来、上下の歯が接触するのは食事をするときのみ。にもかかわらず、無意識に、常態的に奥歯をかみ合わせてしまうのだ。「かみしめの力は約200kg。それが、歯や顎関節に大きな負担をもたらしてしまう。口の中に現れた諸症状の原因は、ここにあったのです」(井出医師)

では、なぜかみしめてしまうのか。それは姿勢の悪さに起因しているという。「現代人は、パソコンやスマホの長時間使用で、身体が常にうつむき加減で、猫背になっていいます。すると、頭の位置が本来あるべき場所からずれてしまい、自然に奥歯が接触。そこに心的ストレスなどが加わり、かみしめてしまうのです」(井出医師)

冒頭のチェックで、10秒間以上かみしめていられた人は、これに該当する可能性が高い。たとえ歯痛や顎の不調を感じていなくても、頭痛、肩こり、首こりなどがあれば、それはTMDの症状かもしれないのだ。

日本人の6人に1人がTMD!子どもにも見られる、TMD深刻な影響

TMDの先には何が起こるか。「姿勢の悪さから、肩や首、頭がこり、頭痛になる。脳に酸素が十分に行きわたらず、つねにイライラが続く。歩き方がおかしくなり、膝が痛くなる。現代のビジネスマンの多くが感じている症状がここからきています。さらにTMDの影響で、年とともに飲み込む機能が衰え、誤嚥(ごえん)につながり、最終的には肺炎、なんて可能性も考えられます」(井出医師)

また一方で、美容にも大きな影響を及ぼし、顔の筋肉にかかる力のバランスがずれ、ハリ、たるみ、シワの原因にもなるという。
井出氏によれば、TMDの罹患状況は、筋肉緊張型頭痛を抱えている人の約7割、2000万人くらいだという。つまり日本人の6人に1人がTMDだということ。さらにこれは、大人だけでなく、年々子どもたちにも広がっている可能性があるそうだ。

「口の中のトラブルで私のもとを訪れる子どもたちにも姿勢の悪さが目立ち、そこに原因があることが多々あります。現代の子どもたちの体力の低下や、身体能力の低下も、根本的な原因は姿勢。私は今、小児口腔育成が子どもたちの健康にも役立つと信じ、そういった研究も重ねています」(井出医師)

目指すのは、TMDの治療から広がる歯科の発展

目指すのは、TMDの治療から広がる歯科の発展

井出氏の診察は実にユニーク。歯が痛いからといって、決してすぐに削るようなことはしない。まずはTMDの有無を確かめるために、かみしめの確認をするほか、姿勢や表情の観察、顔の触診、口の中のチェックを行う。そして、患者が訴える諸症状と、その人の日々の生活習慣などを掛け合わせ、相談のうえで治療法を決めていくのだという。

TMDを原因とする軽度の口腔トラブルは、姿勢や生活習慣の改善を促すだけの治療で治ってしまう場合もある。一方、症状が重いときには、マウスピースなどを使いながら、段階を踏んで本来の姿勢に戻していくそうだ。

「TMDは、命には直接的な影響はありません。しかし、歯をはじめ、身体中に不調を及ぼしてしまうため、快適な生活が送れなくなることは確か。逆にいえば、TMDを治療すれば、その先には明るい人生が開けるのです。私のもとを訪れる患者さんは、治療が終わると、もっといえば診察を行っただけで、誰もが表情を明るくします。歯は、健康な心身を維持するために重要な咀嚼機能を担う大事な器官の一つ。悩める多くの患者さんに笑顔を届けるためにも、歯科の可能性を広げ、もっといいものにしていきたいと考えています」(井出医師)


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Colorda編集部