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2017.12.14

Vol.7 受けたあとがもっとも重要! 人間ドックの結果活用術【その1:脳ドック編】

人間ドックは、受けるだけならただの確認作業


私が考える人間ドックの役割は、少しでも健康で楽しい生活を長く送るために「現在の自分の健康状態を確認すること」です。つまり人間ドックは、受けるだけではただの「確認」で終わるのです。もちろん、何もなければ安心して生活を送れるでしょう。しかし、異常が見つかった場合、健康を継続するためには「改善」が必要です。それでは、人間ドックの結果表からどのように改善につなげればよいのでしょうか。今回は脳ドックを受けたあとのポイントと改善点についてお伝えします。

脳ドックで何がわかるのか

日本脳ドック学会によると、「脳ドックは,無症候性あるいは未発症の脳血管疾患あるいはその危険因子を発見し,それらの発症あるいは進行を予防することを目的とした,わが国独自の脳の検診システムです.」とあります(※)。

また、とくに下記の方々に脳ドックの受診を推奨しています。

(1) 脳ドックを積極的に勧める対象は中・高齢者が望ましい.

(2) 脳卒中の家族歴,高血圧,糖尿病,脂質異常症,肥満,喫煙などの危険因子を有するハイリスク群に対して重点的に受診を勧める.

つまり、脳ドックの主目的は、高血圧や動脈硬化の危険因子がある方に対する、無症候性脳梗塞や動脈瘤の発見です。

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脳MRI・MRAは何を見ているか

脳ドックの検査には、脳MRIと脳MRAがあります。おもな発見の対象は下記の通りで、これらには脳MRIと脳MRA両方の撮影が必要です。

  1. 無症候性脳梗塞
  2. 脳卒中の危険因子
  3. 未破裂脳動脈瘤
  4. 無症候性頭蓋内および頸部血管閉塞・狭窄
  5. 高次脳機能障害
  6. その他の機能的、器質的脳疾患

脳MRIではおもに脳実質を見ており、脳腫瘍や脳梗塞・脳出血などの異常を見つけます。脳MRAでは脳血管を見ており、の異常(動脈瘤・狭窄・脳動静脈奇形など)を見つけます。

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脳ドックで異常が見つかったら(1)脳動脈瘤

脳動脈瘤のタイプ

これまでの研究成果から、いろいろなタイプの脳動脈瘤があると考えられています。

  1. あっという間に脳動脈瘤が形成されて出血し、くも膜下出血を引き起こすタイプ(これは予防のしようがありません)
  2. 脳動脈瘤がだんだんと大きくなり出血するタイプ
  3. 脳動脈瘤が形成されるが、大きくもならず出血もしないタイプ

脳動脈瘤の頻度(100人に5人)と、くも膜下出血の頻度(1万人に年間1人)の差から、大多数は3と考えられます。おそらく、ある時期に脳動脈瘤が形成されるのですが、破裂に至らず、自然治癒力が働いてそのままのかたちで留まってしまうと考えられています。

脳動脈瘤が見つかったらすべきこと

  1. 喫煙、高血圧、大量飲酒に注意する
  2. 定期的に経過観察する

脳動脈瘤の環境要因のリスクは3つです。喫煙、高血圧、大量飲酒。喫煙しているのであれば、止めること。そして、もうひとつのリスクは高血圧ですので、生活習慣を改め、降圧剤を調整して、できる限り正常値に安定させることです。そして、お酒の好きな方は控えることです。

経過観察は、初回は3ヶ月、6ヶ月、1年のタイミングで受診しましょう。その後は1年に一度、大きくなっていないか観察します。破裂しないような薬を欲しいと言われる方がいますが、まだ十分な科学的根拠はありませんので、現時点では処方することはありません。ただし、一部研究により今後は未破裂脳動脈瘤の内科的治療の可能性も示唆されていますので、今後に期待したいです。

脳ドックで異常が見つかったら(2)虚血性変化・無症候性脳梗塞

大脳白質性病変・慢性虚血性変化・加齢性変化などと記載されることがありますが、概ね表現しようとしていることは同じになります。動脈硬化などで血液の流れが悪くなり、脳の毛細血管に血液が流れず脳に変化した部分がある状態です。これらは、一般的には無症状であることが多いのですが、程度が強くなると、認知機能低下(認知症)や下肢機能低下といった症状が出てくることがあり、注意が必要です。

無症候性脳梗塞が発見された人は、そうでない健康な人に比べて、脳梗塞や心血管系疾患を発症するリスクが高くなることがわかっています。本格的な脳梗塞を発症する前に脳ドックで無症候性脳梗塞を発見できれば、危険因子がある場合はその内容を調べて生活改善を行うことで、脳梗塞の発症リスクを下げることができます。

脳梗塞の種類と危険因子

脳梗塞の種類は、大きく3つに大別されます。

  1. アテローム血栓性梗塞:動脈硬化によって動脈の内腔が狭くなって血栓が詰まる
  2. 心原性脳塞栓症:心房細動などの不整脈をもとに、心臓内に生じた血栓が血流にのって脳に流れて脳動脈が詰まる
  3. ラクナ梗塞:脳の小動脈の壁が傷ついて閉塞する

脳梗塞の危険因子は、生活習慣病と切り離せない関係にあります。日本生活習慣病予防協会に掲載されている関連する生活習慣病は以下の通りです。★の数が多いほど関連が強いことを意味します。

★★★
高血圧
脳梗塞の重大な危険因子です

★★☆
心房細動
全脳梗塞例の10~20%に心房細動が認められ、心原性塞栓の50%では心房細動が原因であると考えられています。

★★☆
動脈硬化
脳梗塞の主要原因です

★☆☆
高脂血症・糖尿病・喫煙・肥満症/メタボリックシンドローム

これらの病気は脳梗塞を引き起こす動脈硬化の危険因子です。

虚血性変化・無症候性脳梗塞が見つかったらするべきこと

先述の内容を見ていただくとわかる通り、危険因子は、高血圧、心疾患、動脈硬化の大きく3つに分けられます。では、それを念頭に、虚血性変化・無症候性脳梗塞が見つかったらするべきことを見てみましょう。

  1. 高血圧の方は医師の指示のもと高血圧治療を行う
  2. 心房細動(なかでも非弁膜症性心房細動:NAVF)のある方は医師の指示のもと抗凝血薬療法などで血栓予防を行う(出血のリスクに注意が必要)
  3. 高脂血症・糖尿病・喫煙・肥満症の方は動脈硬化のリスクが高いため、生活習慣の改善を図る

虚血性変化・無症候性脳梗塞は、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクが高いことを意識しましょう。血圧のコントロールと動脈硬化の危険因子に注意し、生活習慣の改善を図ることが重要です。

最後に、脳ドックの結果で知っておくと結果の解釈に役立つことばをご紹介します。

正常変異normal variant(ノーマル バリアント)

脈絡叢嚢胞(みゃくらくそうのうほう:脳の脈絡叢の中に見える小さな嚢胞のこと。多くは胎児のころに消失するが、正常変異として遺残することがある)、ベルガ腔(べるがくう:脳の正中部分に認める脳脊髄液腔の嚢胞状拡張。乳児期に多く認められるが、加齢とともに退縮してなくなる。正常変異として遺残することがある)、静脈奇形、血管の低形成(左右どちらかの血管が生まれつき細いこと)などで「正常変異」や「normal variant」と表現されることがあります。構造的には正常ではないものの、それによって害する症状が出ていないものを指します。

ほとんどが先天的(生まれつき)で、今後も変化しないため正常変異と記載されることがあります。正常変異は病気ではなく、治療や経過観察を必要としない所見のことです。

※日本脳ドック学会「脳ドックのガイドライン2014」2014年4月


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Colorda編集部