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2017.8.24

Vol.6 胃がんが心配なら、胃カメラやバリウムの前にまずピロリ菌検査!

ピロリ菌と胃がんの関係性


ピロリ菌は1982年に発見され、その後、がんだけでなく胃潰瘍や十二指腸潰瘍にも関連することがわかりました。

今、日本人がかかっている胃がんの98%はピロリ菌感染によるものとされています。裏を返せば、ピロリ菌未感染の方が胃がんになるリスクは2%ということです。ピロリ菌感染のほとんどは幼少期までに起こります。免疫力のついた成人はほとんど感染しないと言われており、感染した場合は急性胃粘膜病変を起こすことはありますが、一過性感染で終わる可能性が高いとされています。

ピロリ菌と胃がんとの関連は、感染からのプロセスのどのタイミングで除菌できるかがカギになります。まずはそのプロセスについて見てみましょう。

感染から胃がんへのプロセス

ピロリ菌に感染すると、数週から数ヶ月で「慢性胃炎(ピロリ感染胃炎)」を100%発症します。これは“病理学的な慢性炎症”であって、症状がない場合もあります。この状態が続くと、日本人の場合は8割以上が「萎縮性胃炎」へと移行します。萎縮性胃炎になると、時間をかけて胃酸が減り続けていき、ついには胃酸の出ない状況に陥ります。さらに、このうち1%未満が「分化型胃がん」へと進行すると考えられています。分化型胃がんとは、細胞の分化度における呼称で、分化型と未分化型があります。一般的に、分化型は進行が緩やかで、未分化型はがん細胞の増殖が速いため進行が速い傾向があると言われています。

前述のとおり、ピロリ菌感染のほとんどは幼少期までに起こります。つまり、ピロリ菌感染歴が長いほど萎縮性胃炎が進み、胃がんのリスクが高まるのです。そのため、できるだけ若いうちにピロリ菌の検査と除菌を行えば萎縮性胃炎の進行を止めることができ、胃がんのリスクが抑えられます。ただし、萎縮性胃炎の進行度合いによっては、除菌をしても胃がんリスクがゼロになったとは言い切れません。ピロリ菌感染歴のある方は、1年に一度、内視鏡での経過観察をおすすめします。なお、ピロリ菌が認められなかった場合は、食道がんと2%の胃がんリスクを考慮し、3年に一度、内視鏡検査を受けるとよいでしょう。

ピロリ菌の感染経路は「水」と「人」

感染経路はまだ充分わかっていませんが、現状では可能性として2点考えられています。ひとつは衛生状態のよくない水からの感染、もうひとつは感染した人からの感染です。

「水からの感染」は、現在も、衛生状態が悪い途上国などでの感染が報告されています。日本においてはどうでしょうか? 日本消化器病学会によると、戦後まだ衛生環境のインフラが十分整っていなかった時代に幼児期を過ごした60代以上の感染率は約60~70%と高く、衛生環境が整備されるにつれ低下、現在の10代では10%を切るまでに減少しているとされています。日本の水道水は適切な塩素処理によってピロリ菌殺菌が行えており、東京近郊の10の水道水ではピロリ菌が未検出です。

一方、井戸水では6ヶ所のうち2ヶ所で検出されたというデータがあるようですので、井戸水や湧き水にはピロリ菌がいる可能性はあると考えたほうがよさそうです。事実、井戸水や湧水を使う人は、水道水を使う人に比べるとピロリ菌感染率が高いというデータもあります。登山やキャンプで汲み水を飲む場合は、ピロリ菌やそのほかの菌の存在も考えられますので、しっかりと煮沸消毒を行ったものがよいでしょう。ピロリ菌は75℃かつ1分以上の加熱で完全に死滅するとされています。

続いて「人からの感染」ですが、経口感染、または糞便で排出された細菌に汚染されたものが口に入ることからの感染など、とされています。胃酸の分泌や胃粘膜の免疫能の働きが不十分な幼小児期に感染しやすく、親が感染していると子どもの感染率も高くなります。当然ながら、感染している人との接触機会が多いほど感染する可能性が高まるためです。

このように、上下水道が整備されている現代の日本でのピロリ感染は、おもに小児までの間に親から感染することが多いと考えられていますので、親のピロリ菌検査とピロリ菌除菌がもっとも大切です。

検査は採血だから簡単、人間ドックに組み込もう

検査には、「抗体測定」、「尿素呼気試験」、「便中抗原測定」があります。人間ドックでは簡便にできる「抗体検査」が一般的です。「尿素呼気試験」「便中抗原測定」は「抗体検査」よりも精度が高く、精密検査や除菌後の効果判定に使用されることが多い検査です。

抗体検査

採取した血液や尿から、ピロリ菌の抗体の有無を調べる(抗体価が高ければピロリ菌が存在する可能性が高い)

尿素呼気試験

患者に検査薬を飲ませ、一定時間経過後に呼気を調べる

便中抗原測定

便を採取し、ピロリ菌抗原の有無を調べる

一般的には、まずは内視鏡を使わない上記の方法で検査を行います。内視鏡を使用する方法をファーストチョイスにすると、ピロリ菌が存在しないところを採取してしまう可能性があり、その場合、ピロリ菌が検出されないためです。内視鏡を使わない方法でピロリ菌感染が疑われた際は、その後内視鏡を用いた検査を行います。

また、上記の抗体検査に加え、ペプシノゲン検査を組み合わせたものが「ABC検診」と呼ばれるものです。ペプシノゲン検査は胃の萎縮度合いを調べる検査で、採血で行います。

2017年に基準値変更、過去「陰性」だった人は数値を見直そう

ピロリ菌検査は疑陽性や偽陰性にも注意が必要です。胃痛などに用いられる、PPI(タケプロン、オメプラール、パリエット、ネキシウムなど)およびタケキャブなどの胃薬を内服中にピロリ菌チェックを行ってはいけません。これらの胃薬はピロリ菌を弱らせる働きがあるため、偽陰性(本当はいるのに、検査上いないような結果になること)になる確率が高まります。これらの服用を中止ないしはH2ブロッカー(ガスターなどの胃酸を抑える薬)に変更し、最低2週間経過してから検査を行うことが推奨されていますので、医師に相談しましょう。

また、簡便に検査ができることから、人間ドックでは一般的に行われることが多い「ピロリ菌抗体検査」は、判定の解釈が2016年度に変更していますので注意が必要です。2017年度から適用してる医療施設が多く、当院でも以前は10U(ユニット)/mL未満が基準値でしたが、現在は3U/mL未満です。3~10U/mLの陰性高値としていた群にも10%近くのピロリ菌感染者がいることが発表され、陰性高値を「陽性」と判定することが推奨されています。以前に「陰性」と判断された方も、感染の可能性がゼロではありませんので、もう一度、抗体の数値を確認してみましょう。

ピロリ菌に感染していたら、とにかく必ず除菌を!

早期胃がんで内視鏡手術を受けたピロリ菌感染者505人を2グループに分類し、一方にピロリ菌の除菌をし、もう一方は除菌をしなかった研究では、除菌したグループで胃がん再発率を約3分の1に抑えられることがわかりました。また、委縮性胃炎が進行する前の若いうちに除菌をしたほうが、より胃がんのリスクを低減できるとしています。

繰り返しになりますが、若いうちにピロリ菌検査、除菌を行うほど胃がんのリスクは抑えられ、日本人のがん死亡者数男性2位、女性3位(※)でもある胃がんの死亡率は激減します。まずは、ピロリ菌検査、感染が認められたら内視鏡検査を行い、除菌治療が推奨されます。

※厚生労働省「人口動態統計」2015


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Colorda編集部