子宮がんを調べる2つの検査
子宮がんは腫瘍が発生する部位に応じて、子宮頸がんと子宮体がんの2つに分けられる。それぞれ子宮頸部と子宮体部の上皮を採取することで病変の有無を確認する。いわゆる細胞診と呼ばれる検査だ。子宮がんでは広く用いられている検査で、問診や視診とともに、初期診断には欠かせないものだ。ただし、検査方法に抵抗がある人が多かったり、病変部を特定するうえでは精度が低かったりと、万能とはいえない。そこで最近注目されているのが、骨盤MRI検査である。人間ドックでも取り入れられている2つの検査が、どうして行われているか、その目的を見ていきたい。
細胞診では病変の部位を特定できない
MRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像法)は電磁場を発生させて、生体内の水素原子と共鳴させ、身体を画像診断する装置だ。CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)とは全く原理が異なり、被曝のリスクもない。骨盤腔には水素原子が豊富な子宮や膣、卵巣といった臓器があり、MRIの有用性が高い。子宮の形などを3次元的に再現でき、腫瘍がある部位などを特定しやすいのだ。そのため、子宮がんや卵巣がんには、骨盤MRIが用いられることが多くなっている。
一方、細胞診は非常にシンプルな検査といえる。子宮の内膜から細胞を採取して、異常がないかを顕微鏡で調べる。病理の専門家である病理医が観察するため、検体にがん細胞が含まれているかどうか判断する。がんを診断する検査法の中で、非常に重要な検査のひとつである。だが、細胞診でわかるのは、あくまで病変の有無であり、部位の特定は難しい。また、細胞を採取する場所によっては、病変を見逃してしまう可能性も否定できない。
がん細胞の有無を見る細胞診と、がんの広がりを見る骨盤MRI
子宮がん検査で行われる細胞診は、ものの数分で処置が終わる。産婦人科検診台と呼ばれる特殊な椅子に下着を脱いだ状態で座り、開脚する。膣を経由して医師が直接、専用の器具を用いてこすり取り、細胞を採取する。細胞診の結果、がんが疑われたときには、さらに詳しく検査をするために組織診が行われている。
一方、がんの広がりをみるのに適した検査が、骨盤MRIだ。MRIであれば、30分ほど横たわっているだけで、肺や肝臓などの遠隔臓器への転移の有無、リンパ節転移の診断、周辺臓器への浸潤の程度を診断する際に有用な画像が得られる。もちろん、検査時間は長くなるが、精神的負担を軽くできるというメリットは大きいといえる。しかし一方で、MRIの検査では、検査装置の狭い空間のなかで、大きな音が鳴り響く状態で、長時間横たわり動けない。閉所恐怖症などの方には不向きだ。
以上のように、骨盤MRIと細胞診には大きな違いがあり、また検査を行う目的が異なっている。子宮がんという深刻な疾患ゆえに、臨床の現場では、色々な検査を組み合わせて行われているのだ。

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)