2017.2.23
がん全般を調べる腫瘍マーカー

がん全般で高値を示す腫瘍マーカー「TPA」

特異性の低い、がんの補助診断で用いられる腫瘍マーカー

腫瘍マーカーは、体内にがんの腫瘍ができると、特殊な物質が大量につくられ、血液中に出現するという特性を利用した血液検査だ。今回は、がん全般で高値を示す腫瘍マーカーTPAを紹介する。

多くの腫瘍マーカーは、それぞれ異なる臓器の腫瘍に特異性を示す。AFPであれば肝臓がん、CEAであれば消化器系がんで陽性率が高く、各臓器の腫瘍細胞が増殖するにつれ、特徴的な抗原が産生されていくためだ。けれどもなかには、特異性の低い腫瘍マーカーも存在する。それがTPAである。

TPA(tissue polypeptide antigen)とは組織ポリペプチド抗原の略称であり、色々な腫瘍で高値を示す。癌の増殖活性を反映するため、治療経過の把握に有用な腫瘍マーカーであるといえる。

消化器系がんや、卵巣や前立腺のがんの異常をも示すTPAの基準値

TPAの基準値は、125U/ml以下(RIA法)である。血液検査でこの値を超える場合は、様々な疾患が疑われるが、筋肉、脂肪、骨、造血組織などにできる非上皮性腫瘍では、TPAが生成されることが少ないため、第一にがんが疑われる。具体的には、食道、胃、大腸、肝臓、膵臓といった消化器系の臓器全般だけでなく、肺、卵巣、前立腺、膀胱などのがんも含まれる。つまりは全身のどこかでがんが発生すると異常値を示すのがTPAなのだ。

逆に、良性腫瘍のような非上皮性腫瘍では値が上昇しにくいため、がんのスクリーニング検査としては非常に有用であるといえる。ただし、そのほかの腫瘍マーカーと同様、TPAにも様々な例外がある。

▽ がん以外に、炎症性疾患やインフルエンザで異常値が表れるケースも

がん全般に特異性を示すといえるTPAであるが、肺炎や膵炎、前立腺炎などの炎症性疾患でも陽性となることがある。また、インフルエンザや腎不全、糖尿病といった疾患でも陽性となることがあるため注意が必要だ。そのほか、飲酒の習慣があったり妊娠中であったりすると、TPAが異常値を示すことがある。

このように、TPAが基準値を超えたからといって、必ずしもがんを発症しているとは限らない。そのため臨床では、がんの補助的な診断として用いられたり、がんの進行度合いや手術後の経過を観察するために用いられたりすることが多いのだ。ともあれ、血液検査によってTPAに異常値が表れた場合は、追加の検査を受けるのが望ましい。他の腫瘍マーカーを併用したり、エコーや内視鏡検査、エックス線検査などの精密検査を受けたりすることで、病気の特定を行っていくこととなる。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部