300万人以上が感染している肝炎ウイルス
日本人の約40人に1人が肝炎ウイルスに感染していると推測されている。数にすれば300万人以上にも及ぶ。
けれども、そのうち70%もの人は自身が感染していることに気づいていない。これは肝炎ウイルスが自覚症状に乏しい病気であることに由来している。そこで必要となるのが、肝炎ウイルスの検査である。
肝炎ウイルスは、全身倦怠感や黄疸、それから食欲不振といった自覚症状が現れ始めてから治療したのでは遅い。なぜなら、そのころには肝硬変や肝細胞がんといった致死性の高い病態にまで進行してしまっている可能性があるからだ。そうしたシビアな状態を避けるためにも、早めに肝炎ウイルスの検査を受けておくことが望ましい。
検査を受ける時期に気をつける
肝炎ウイルスの検査は、いたってシンプルだ。血液を採取し、早ければ1週間程度でその結果を知ることができる。ただ、気をつけなければいけないのは、検査を受ける時期である。
もしも、肝炎ウイルスに感染したと思われる出来事があった場合、そこから3ヶ月以上経過してからでなければ正確な検査結果を得ることが難しい。というのも肝炎ウイルスは、感染直後に急速な増殖を見せるわけではないからだ。
また、ウイルスに対して免疫システムが反応するまでには、それなりの時間がかかる。そういったことから検査を受けるには、3ヶ月という期間が必要になるのだ。
ちなみに肝炎ウイルスは、主に血液を介して感染する。そして、その大半が輸血であるため、輸血を伴うような治療を受けた場合は、感染の可能性が高まっているといえる。
できるだけ正確な検査結果を得るために
ヒトに感染する肝炎ウイルスには、A、B、C、D、Eといったタイプが存在する。けれども、日本における肝炎ウイルスの検査では、B型肝炎とC型肝炎のスクリーニングだけ行われる。その理由は、感染経路の違いにある。
AとEは、水や食べ物を介して感染するため、衛生環境が整った日本では感染の可能性が非常に低くなっている。Dに関しては、Bに感染したあとでなければ、その感染は起こらない。そういったことから、日本においてはBとCの検査がメインとなっているのだ。
では、BとCには、どういった違いがあるのだろうか。実は、BはDNAウイルスで、CはRNAウイルスであり、両者には根本的な違いが存在する。また、Bは一過性感染の傾向が強く、Cは持続性感染の傾向が強いという違いもある。そして、実際の肝炎ウイルス検査でも、BとCでそれぞれ注目する部分が異なる。
B型肝炎に関しては、HBs抗原の存在を確認する。HBs抗原とは、ウイルスの体の一部である。一方、C型肝炎は抗原ではなく、抗体を見ることになる。いわゆるHCV抗体と呼ばれるもので、これは免疫システムがC型肝炎ウイルスに対して作ったものである。なぜC型肝炎だけ、抗原ではなく抗体を見るのかと疑問に思うかもしれない。
これは、C型肝炎の検査で抗原を用いると、偽陽性が出やすい傾向にあるためだ。肝炎ウイルスというのは深刻な疾患との関わりも深いため、可能な限り正確に検査する必要があるのだ。
このように肝炎ウイルスの検査には、注意すべき点がいくつかあるが、血液検査自体はとても簡便である。それだけに、感染の可能性がなかったとしても、定期的に受けておけば安心だ。

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)