ため息はリラックスをもたらす
疲れているときや、落ち込んでいるときに自然とつくため息。周囲からは「幸せが逃げる」「辛気臭い」などと不評でも、ため息をつくとラクになる感覚がある。これには、気分的な問題だけでなく、身体の中で起こるメカニズムが影響している。
自律神経は交感神経と副交感神経からなるが、ため息をつきたくなるときは、緊張時に働く交感神経が優位になりすぎている場合が多い。それを抑えるためには、リラックスをもたらす副交感神経を働かせる必要がある。ため息の正体は、このリラックス作用にほかならず、がんばりすぎている自分からのサインだ。不安定な精神状態だと、自律神経のバランスが崩れ心身ともに不調が表れる。自律神経の乱れは、血管が収縮し血液循環が悪くなる原因になる。血液がうまく流れない状態が長く続けば、内臓やホルモン分泌にも障害がでる。
ため息でケガまで治る!?
仕事や育児など交感神経が高ぶりやすい状態では、ゆったりとした気持ちを持つのは難しい。さらに男性は30代、女性は40代から副交感神経の働きが低下するため、乱れた自律神経の回復がうまくいかず、筋肉や脳の血流が滞りがちに。「疲れが取れない」「判断力が衰えた」など不調を自覚している場合は、ため息や深呼吸を1日に何度かするよう心がけてみるとよい。副交感神経が優位で落ち着いた状態だと、血管が拡張して消化器の働きもよくなり、便秘の解消、ケガの回復など新陳代謝がうまく行われるようになる。
自律神経は自分の意志ではどうにもできないが、呼吸でコントロールできることがわかっている。調子が出ないときや痛みがあるときほど、ゆっくりと深呼吸をして自律神経のバランスを整えることが大切だ。また、集中して物事にあたっていると呼吸が浅くなるので、こまめにフォローしたい。
ため息にも、コツがある!
ため息をつくときは、長く吐ききるのが効果的。ゆっくり深く吐き出すと、緊張が解消され血液の循環がよくなる。意識しすぎるとストレスになるので、1日に2~3分行う程度から始めて構わない。目安としては、吐く時間を吸う時間の2倍にすること。3秒吸ったら6秒かけて吐くといった具合だ。プレッシャーを強く感じたり、不安になったりしたらすぐに実行してみよう。
自己治癒力のひとつとして備わっているため息を、無理に抑える必要はない。自律神経のコントロールや身体の免疫力を保つために、有効活用していこう。

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)