不妊の原因は、男性にも半分あるという事実
不妊の原因は女性に多いと思われがちだが、世界保健機関(WHO)によれば、男性のみに原因がある場合が24%、男女ともに原因がある場合が24%、つまり原因の半分は男性にあるのだ。これまで、男性の不妊治療については、情報の不足や意識が低いといったことから大きく取りあげられる機会が少なかった。妊娠しづらい理由が、精子の数が少ない、運動率が悪いなど、男性側にあるのを調べずに、卵巣刺激や採卵をして女性に負担をかけている場合もある。しかし、2016年1月、厚生労働省は、精子を採取する手術に上限15万円の助成金を支給することを発表し、女性しか対象でなかった枠を男性にも広げた。事実、このように男性不妊が直面している状況が、明らかになってきている。
精子の運動率をあげる、モーター付きコイルの開発が進んでいる!
精子は35歳を境に運動率が低下し、不妊の原因のひとつになるといわれているが、決定的な予防法はまだない。そんななかで、将来有望視したい研究成果があがっている。
ドイツのナノサイエンス研究所では、精子に取り付けるマグネット式のモーターを開発しているというのだ。精子の尾の部分に、金属でコーティングされたコイル状のポリマーを付けて、コイルを廻旋させながら卵子まで到達できるようにする。磁場の方向を変えることで、意図した場所、すなわち卵子へと精子をコントロールして運ぶことが可能だという。人の体内環境に近い状態で行った実験の結果、生きた運動性の低い精子をとらえ、移動させ、放つという一連の動作に成功した。開発の初期段階であり、臨床を重ねる必要があるが、これまでになかった新しい不妊治療が生まれるかもしれない。
負担の少ない不妊治療のために、期待したいこと
精子の数も問題だが、運動率のよい精子でないと妊娠は難しく、着床しても流産する可能性がある。不妊治療では、人工授精、体外受精、顕微授精とステップアップしていくが、いずれの段階においても運動率の高い精子を選ぶことは共通している。1度の治療で成功すればよいが、1回につきおよそ30~50万円以上の高額な治療費がかかるため、何度も簡単に繰り返すわけにはいかず、断念せざるを得なくなることも。また、時間がかかれば、それだけ肉体的、精神的なデメリットが多くなる。治療を希望する場合には、普段から男女ともに身体や生活習慣を正しくし、コンディションを整えておく必要があるだろう。と同時に、今までよりもっと確実な治療法や対処法が医療機関で受けられる日が来ることに期待したい。
研究の最先端は、精子にモーター式のコイルをつけて運動率をあげる、というレベルにまで達している。子どもができずに悩んでいるのであれば、女性だけでなく男性不妊についても積極的に知り、検査する必要があると言えるだろう。

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)