ジカ熱の症状はデング熱に似ている
2014年夏、首都圏を中心に日本国内でデング熱の感染・発症が確認され、公園の封鎖など各地に影響が及んだ。そのデング熱に症状が似ているというジカ熱の感染が、2013年以降国外で拡大している。世界保健機関(WHO)によると、感染が確認されている国は、2016年3月の時点で52か国。日本での感染例はまだないが、アフリカ、中南米、アジア太平洋地域で発生しており、特に近年は中南米で流行している。ジカウイルスを持つ蚊が、ヒトを吸血した際に感染する。おもな症状は、発熱、発疹、結膜炎、関節痛、筋肉痛、倦怠感、頭痛など。一般的に症状は軽く、発症しても気付きにくいことがある。潜伏期間は3~12日で、症状は2〜7日間持続する。予後は比較的良好な感染症である。
胎児が小頭症に!? 危険な妊娠中の感染
ジカ熱は、デング熱と比べると症状は軽度で、通常の免疫力を持っていれば、予後は比較的問題がない感染症である。しかし、懸念されているのが妊婦への感染だ。ジカウイルスが母体から胎児へ垂直感染した場合、小頭症を引き起こす可能性がある。小頭症が流行しているブラジルでは、保健省が妊娠中のジカウイルス感染と胎児の小頭症の関連性が発表された。また、米医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』誌で発表された論文によると、ブラジル・リオデジャネイロに住む妊婦88人に調査をした結果、ジカ熱の症状を訴えた妊婦の29%に、胎児の中枢神経の発達異常が見られた。感染時期は、妊娠初期から後期までさまざまだったという。WHOからは、「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」が宣言され、ジカ熱流行地域への渡航に勧告が出されている。
国内でジカ熱に感染する可能性は?
厚生労働省は、妊婦および妊娠の可能性がある人は、可能な限り流行地への渡航を控えるように呼びかけている。ジカウイルスの媒介蚊であるヒトスジシマカは、秋田県および岩手県以南の地域に生息している。国内で感染する可能性はあるのだろうか。もし、国外の流行地で感染した人が日本国内でヒトスジシマカにさされ、その蚊がほかの人をさしたとすると、低いながらも感染する可能性はある。ただ、万が一そのような事態が起こったとしても、ヒトスジシマカは冬を越さずに死んでしまい、活動範囲も50~100メートルと狭いため、一過性でごく限られた場所での感染となることが予想される。
仕事などでどうしても流行地へ行かなくてはいけない場合は、長そで・長ズボンを着用し、蚊に刺されないようにすることが、第一の予防法だ。日本で購入した「ディート」や「イリカジン」入りの虫よけ剤は流行地の中南米でも効果があるので、準備しておくとよいだろう。

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)