2016.7.25

初期のがんでも3分で見つかる! チップを使った新しい診断法

血液1滴で初期のがんから発見できる診断法、誕生

close-up of a blood test pin prick on a finger神戸市にある医療機器会社マイテックと、東京の昭和大学江東豊洲病院のグループが、世界初の画期的ながんの診断法を発表した。血液を、遠心分離によって血清にして金属チップに付着させ、蛍光顕微鏡で観察するという手法であり、2016年には実用化に成功している。

血液が金属チップと反応したところで紫外線などをあてると、がん細胞から血中に溶け出る「ヌクレオソーム」という核タンパク質が光を放ち、がんかどうかの判断がつくというもの。がんには良性と悪性があるが、悪性のほうがより光る部分が多く、強く発光することがわかっている。自覚症状がない初期や、ステージ0からがんがあるかの判別、がんの種類、進行度を判定できる。

初期のがんは腫瘍が小さいために画像では発見されにくいという問題がある。しかし、この診断法ではその問題が解消され、さらには前がんの段階でも検出が可能になるかもしれない。

多くのメリットがあるバイオチップ

がんの診断がわずか1滴の血液から受けられ、また測定時間が3分というだけでも驚きではあるが、このバイオチップにはほかにもメリットがある。まず、がんの部位が特定できること。1枚のチップでありながら、複数のがんを識別できる。また、内視鏡検査などの苦痛がなく、患者の肉体的な負担も最小限だ。たとえばすい臓がんは内視鏡で直接見ることができず、初期の自覚症状も少ないため発見が遅れることで有名だが、こういった見つけづらいがんの発見がたやすいことにも価値がある。

現時点でバイオチップを使う対象になっているのは、肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、腎臓がん、すい臓がん、前立腺がん、子宮がん、卵巣がんなどの、臓器に塊となって現れる固形がんと呼ばれるもの。早期発見だけでなく、進行や再発リスクに対しても有効で、バイオチップでの診断は多くのメリットがあるといえる。

バイオチップの将来性と応用できることは?

この診断方法で、がんの超早期診断が実現化すると予測されている。また痰や尿など血液以外の体液にもヌクレオソームは確認できるため、肺がんや膀胱がんもより判断しやすくなり、診断の精度が上がることが期待される。

さらにこの技術の獲得によって、目的の物質や未知の物質の検出が可能となることから、がん以外の疾病においても、原因である物質を特定できるようになる。ほかにも再生医療や移植の際には細胞の選抜に利用したり、新薬開発の助けになったりと、その将来性と応用範囲には期待が持たれている。

日本人の死因第1位のがんの診断が、数分で簡便に、そして初期からもはっきり結果が出ることの恩恵は大きい。現在、バイオチップを用いたがん診断は全国38ヶ所の医療機関で導入され、保険適応外ではあるものの、約6万円で受診可能である。今後は、精度の向上が期待されている。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部