検査後も油断できないアルコールの悪影響
人間ドックには、さまざまな制約がある。とりわけ厳しいのが、検査前日から求められる絶食だ。多くの場合、前日の夜から絶食を始めて、当日の検査に臨むこととなる。空腹のなか、数時間に及ぶ検査を受けた後は、好きなものを好きなだけ飲み食いしたいものである。
けれども、検査後の飲酒については注意が必要だ。造影剤としてバリウムを飲む胃部X線検査や、鼻腔や口腔からカメラを挿入して消化管の状態を診る、いわゆる胃カメラ検査などでは、少なくとも検査当日の飲酒は控えておきたい。お酒に含まれるアルコールは、検査後の身体に思いもよらない形で作用することがある。
アルコールはバリウムを固めてしまう
人間ドックの定番である胃部X線検査は、食道や胃、十二指腸といった消化管の病変を調べるために実施される。この検査を受けることで、胃がんや胃潰瘍を発見することが可能だ。消化管粘膜にがんや潰瘍といった病変が存在すると、X線画像上に正常な組織とは異なる形態が写し出される。そこで必要となるのが、胃の輪郭を鮮明に浮き上がらせるバリウムである。バリウムが消化管粘膜に張り付き、今現在、食道や胃がどのような形態を呈しているのかを可視化させる。バリウムは時間が経過すると便とともに排泄されるが、排泄を促すために、検査後は下剤が処方されるのが一般的だ。
ただ、検査後にお酒を飲んでしまうと、バリウムが凝固して排泄されないことがあるため、注意が必要となる。お酒には、アルコールやカリウムといった排尿を促す成分が多量に含まれており、正常な便を形成する上で必要な水分まで排泄してしまうのだ。その結果、凝固したバリウムが腸内に停滞し、腸閉塞という病気を起こしてしまうこともある。
カメラで傷ついた粘膜から出血を促す
胃カメラなど上部消化管内視鏡検査では、鼻腔や口腔から直接カメラを挿入するため、5mm程度の病変でも発見することができる。けれども、挿入時の痛みや不快感に加え、カメラが食道を通過する際に組織を傷つけてしまうというデメリットもある。
食道粘膜へのダメージは小さなものであるが、検査後に飲酒をすると、そのダメージが大きくなる。アルコールは血管を拡張させる作用があり、カメラによって傷ついた食道粘膜組織から出血を誘発する可能性があるのだ。また、組織検査で粘膜の採取を行った場合には、アルコールの血管拡張作用により、検査した部位(粘膜)から出血をおこすこともあるのだ。
アルコールを摂取すると、肝臓で種々の酵素によりアセトアルデヒドへと分解される。このアセトアルデヒドが血管の内皮細胞に働きかけ、血管を拡張するように促す。血管拡張に伴って血流量も増し、傷ついた食道粘膜から出血が起こることになる。
以上のように、検査後の飲酒はさまざまなトラブルを引き起こしかねないため、控える方が賢明といえる。
