膵臓が産生しているタンパク質を分解する酵素、エラスターゼ1
腫瘍マーカーは、体内にがんの腫瘍ができると、特殊な物質が大量につくられ、血液中に出現するという特性を利用した血液検査だ。そのうちのひとつ、エラスターゼ1は、膵臓がんで陽性率が高い腫瘍マーカーだ。エラスターゼ1は膵臓が産生しているタンパク質を分解する酵素のため、早期の膵臓がんに反応して数値が上がるため、膵臓がんのスクリーニングに有用なのだ。ただ、そのほかの臓器でも産生されるタンパクであるため、エラスターゼ1が高値を示したからといって、必ずしも膵臓がんとは限らない。
内分泌と外分泌の機能を併せ持つ膵臓
膵臓は内分泌と外分泌という2つの機能を持った臓器である。膵臓のランゲルハンス島(島の形状で散在する、内分泌を営む細胞群)から内分泌されるインスリンとグルカゴンは、血糖を調節する重要なホルモンであり、人体の恒常性を保つうえでは非常に重要な役割を果たしている。
膵臓は同時に、さまざまな酵素を分泌する外分泌腺としての役割も果たす。代表的なものにアミラーゼ、リパーゼ、キモトリプシンなどがある。そして、腫瘍マーカーであるエラスターゼ1もこの膵臓から外分泌される酵素のひとつである。エラスターゼ1は、コラーゲンの線維を支えるエラスチンと呼ばれるたんぱく質を分解する作用を有する。
エラスターゼ1の基準値
エラスターゼ1の基準値は100~400ng/dL (RIA法)。
エラスターゼ1が異常値を示した場合、かなりの確率で膵臓がんが疑われる。これはほかの臓器や組織と比べて、膵臓に含まれるエラスターゼ1の量が多いためだ。ただあくまで相対的な量が多いだけといえるので、エラスターゼ1の数値で確定診断を下すことは難しい。そこでよく行われるのが、膵臓がんに特異性を示すCA19-9の併用や、リパーゼやキモトリプシンといった消化酵素の測定である。そうして膵臓由来の複数の酵素を調べることで、より精度の高い診断を行うことができる。
膵炎でも高値を示すことがあるエラスターゼ1
血液検査によって膵臓関連の酵素を調べ、病変が膵臓に存在していることが判明しても、それが膵臓がんであると断定することは難しい。なぜなら、エラスターゼ1やそのほかの消化酵素などは、急性膵炎や慢性膵炎でも高値を示す場合があるためだ。そのため、さらに確実性の高い情報を得るには超音波検査や画像検査といった精密検査が不可欠となる。

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)