造血系の腫瘍で力を発揮
体内にがんの腫瘍ができると、特殊な物質が大量につくられ、血液中に出現する。その特性を利用した血液検査が腫瘍マーカーだ。腫瘍マーカー最前線シリーズ、11回目の今回は「フェリチン」について紹介する。
フェリチンは白血病や骨髄腫など、造血系の腫瘍で陽性率が高い腫瘍マーカーである。また同時に、肝臓がんや膵臓がん、大腸がんなどでも陽性を示すことがある。
鉄分を組織に貯蔵するフェリチン
フェリチンとは、水陽性たんぱく質の一種で、鉄分と結合している物質だ。おもに肝臓や脾臓、心臓などの臓器、微量ながら血液中にも存在する。
体内において、鉄分の多くは、呼吸によって取り込んだ酸素を運搬するヘモグロビンの合成に使われるが、余剰分の鉄は、その一部が排泄されることなくフェリチンと結合する。そして肝臓などの“血液の貯蔵庫”に収められるのだ。鉄分不足により、ヘモグロビンが合成されなくなると、酸素欠乏症や貧血を引き起こしてしまうが、フェリチンがその不足分を調節する役割などを持つ。
フェリチンの基準値と疑われる疾患
フェリチンの基準値は男女で異なり、男性は20~220ng/ml以下、女性は10~85ng/ml以下(RIA法)だ。
炎症などにより組織が破壊されることでフェリチンが血液中に放出される。しかしフェリチンは、あらゆる組織に存在するため、がんの種類を特定することが難しい。鉄分調節に関わるため、白血病などの造血系のがんの腫瘍マーカーとして使われているが、基準値を上回った場合は、白血病以外にも、肝臓がんや膵臓がん、さらに大腸がんや腎臓がん、卵巣がんなども疑われる。逆にフェリチンが基準値を下回った場合は、鉄欠乏性貧血が疑われる。これは血液中の鉄が減少し、鉄と結合できるフェリチンも減少するためである。
また、女性の基準値の幅が狭いのは、月経による鉄の喪失があるためだ。ただ、閉経後には徐々に男性の値に近づいていくため、年齢に応じて基準値を見直す必要が出てくる。そのほか、輸血や鉄剤の服用などでもフェリチン値が症状するため、注意が必要である。
このように、フェリチンは体内の貯蔵鉄の状態を推定する検査項目であり、腫瘍をピンポイントで検出することは難しい。そのため、異常値が現れた場合は、ほかの血液検査や精密検査などと組み合わせて確定診断が行われる。
マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)