2016.7.28
卵巣がん、精巣がんの腫瘍マーカー

卵巣がん、精巣がん、肺がん、胃がんなどの腫瘍マーカー解説「hCG」

hCGは、子宮内環境を整えるホルモン

Cancer in ovary of woman illustration組織中に腫瘍が発生すると、その副産物として特殊な物質が大量につくられ、血液中に出現する。その特性を利用した血液検査が腫瘍マーカーだ。腫瘍マーカー最前線シリーズ、12回目の今回は「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」について紹介する。

hCGとは「Human chorionic gonadotropin」の略称で、日本語ではヒト絨毛性ゴナドトロピンという。妊娠期の胎盤から産生され、卵巣に働きかけて生殖機能を活発にする作用があるタンパク質の一種、性腺刺激ホルモンで、妊娠との関連が深い。卵巣における黄体の分解を防ぐため、黄体は着床を助けるプロゲステロン(黄体ホルモン)の産生を続けることができる。

プロゲステロンは、妊娠そのものや妊娠の継続に寄与する重要な性ホルモンである。母体の基礎体温を上昇させたり、子宮内膜を維持させたりするなど、胎児が発育しやすいような子宮内環境に整える。つまりhCGは、そうした重要なホルモンを上流でコントロールしていることになる。

がんの腫瘍マーカーとしての、hCGの基準値と疑われる疾患

hCGは妊娠検査で用いられる検査項目であるが、腫瘍マーカーとしても利用できる。具体的には卵巣がん、精巣がんといった疾患に陽性を示すことが多い。胃がんや肺がん、膵臓がんでも基準値より高値を示すこともある。異常か否かを見極めるhCGの基準値は0.2ng/ml以下だ。

もしもhCGの値がこれよりも高ければ、先ほど述べたような悪性腫瘍の可能性がある。また、妊娠中であれば、多胎妊娠や胞状奇胎などが疑われる。多胎妊娠とは、2人以上の胎児を同時に授かることで、胞状奇胎は絨毛細胞が子宮内で異常増殖する病変である。逆に、hCGが低値の場合、子宮外妊娠や流産、早産などの異常が疑われる。

hCGは、男性にとっても重要なホルモン

hCGは卵巣がんの腫瘍マーカーであるが、同時に精巣がんを検出するのにも役立つ。妊娠中に産生されるホルモンがなぜ、精巣がんの腫瘍マーカーにもなり得るのか不思議に思うかもしれない。実はhCGには、精巣におけるテストステロンの産生を促す働きもあるのだ。テストステロンが減少すると不妊の原因となることがあるため、hCGは男性にとっても重要なホルモンといえる。

精巣がんはそのほとんどが胚細胞性腫瘍と呼ばれるもので、精子の産生そのものに悪影響が及ぶだけでなく、命を落とすような深刻な病態を招くことがあるため注意が必要だ。ただし、検査によって早期に発見することができれば有効な抗がん剤もあるため、根治することも可能である。

hCGは、胃がんや肺がんでも陽性となる

卵巣がんと精巣がん以外に、胃がんや肺がんでも、hCGが高値となる場合がある。生殖器とはまったく関係ない臓器のがんに反応するのはなぜか? これには、異所性ホルモン産生腫瘍と呼ばれる組織が関係している。

ヒトの身体を構成する細胞は、もともとどんな組織にも分化可能であるが、発生が進むにつれて、胃なら胃、肺なら肺を構成する細胞へと分化していく。それぞれが臓器となり、ホルモンを分泌するなど、専門的な働きをする。しかし、腫瘍という特殊な病態を帯びると、通常では分泌されないはずのホルモンが分泌されることがある。要は胃や肺の組織から性ホルモンが分泌されると考えてほしい。腫瘍が原因で、本来であれば出るはずのないホルモンが分泌されることを専門的に異所性ホルモン産生腫瘍と呼ぶ。これが胃がんや肺がんでもhCGが高値となる理由である。

hCGが高値を示した場合は、そのほかの腫瘍マーカーの数値や、精密検査の結果と組み合わせて、卵巣がん、精巣がん、胃がん、肺がんを判断していく。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部