「いつまでも若々しく、健康でありたい」という願いを叶えるメソッドが、最先端の研究により明らかになってきている。
今回は、ストレスの軽減法に注目し、世界中の研究者の研究結果を幅広く紹介。多様な理論のなかから自分に合う方法を見つけ、ぜひ実践してほしい。

2017.1.19

笑う門には「長寿」来たる

「笑い」が心身の健康や長寿に関連する!?

Two women laughing while looking at the smart phone in the office
「笑う門には福来たる」というが、最近の研究により笑いの程度が大きい人ほど長生きの傾向があることがわかった。

米国ウェイン州立大学のアーネスト・アベル博士らは、1950年以前に米メジャーリーグでプレーを始め、52年のベースボール選手名鑑に顔写真が掲載された野球選手230人について「微笑みの度合い」を分類した。顔写真が無表情な顔は「微笑みなし」、口のまわりの筋肉のみが微笑んでいる顔は「部分的な微笑み」、口も目も微笑んでいて両頬が上がっている顔は「満面の微笑み」と分類し追跡調査した。

その結果2009年6月の時点で故人となった選手150人の平均寿命を比較してみると、「微笑みなし」は72.9歳(63人)、「部分的な微笑み」は75.0歳(64人)、「満面の微笑み」は79.9歳(23人)で笑いの程度が大きいほど長生きの傾向があることがわかった。アベル博士は「微笑みの度合いが潜在的な感情である笑いを反映するという視点に立てば、笑いが心の健康、身体の健康や寿命に関連するというこれまでの研究を支持するものである」と主張する。

笑いには鎮痛効果も?

一方、笑いが鎮痛効果や多幸感にも関連して長寿をもたらしている可能性も指摘されている。

オックスフォード大学社会文化人類学研究所のロビン・ダンバー所長は、研究室で被験者に通常の自然番組のドキュメンタリーを見せたときと、『Mr.ビーン』や『フレンズ』などのコメディを15分見せたときの脳の変化を比較した。その結果、視聴者をリラックスさせる自然番組のドキュメンタリーでは、痛みに対する閾値(いきち)が変化していなかったのに対して、コメディを観たときには痛み刺激に対する閾値が高くなっていることを発見した。閾値とは、興奮や反応などを起こさせるために必要な最小の強度や刺激などの量のことだ。

ダンバー所長はコメディを観ることにより「笑い」が誘発され、笑いにより脳でエンドルフィンという神経ペプチドが放出されることを発見した。エンドルフィンは自分自身が脳のなかで作る麻薬性の化学物質で、そのために痛み刺激に対して脳が麻痺することが知られている。エンドルフィンといえば、ランナーズハイなどの幸福感を作る作用も知られていて、人の行動の動機付けを作っている物質でもある。

興味深いことに1人でコメディを観た群ではエンドルフィンはあまり放出されなかったが、4人のグループでコメディを視聴した実験群ではたくさんのエンドルフィンが放出された。笑いの環境には友人も重要らしい。

笑いは、人間社会で重要な役割を果たしている

所長はさらに、研究室で起きたことが実際の社会生活のなかでも起きていることを確認するために、エディンバラで開催された芸術祭で、コメディを観覧した参加者と演劇を観劇した参加者のエンドルフィン放出を調べ、笑いの脳への効果を検討した。興味深いことに、コメディを観覧した参加者とコメディを演じた役者は、ズキズキとした痛みを感じる疼痛(とうつう)刺激閾値が強まっていた。しかし、演劇では見た人も演じた人も疼痛刺激閾値は変化していなかった。

実際にエディンバラの芸術祭で参加者の笑いを録音し解析すると、コメディを観ている時間の3分の1の時間を笑って過ごしていることがわかった。これまで人間が笑う理由や社会生活における笑いの役割に関してはあまり研究されてこなかったが、ダンバー所長は今回の研究から「笑いが人間社会で重要な役割を果たしているのは、脳におけるエンドルフィンの放出作用によるものだろう」と考察。

今回の研究の結果は、これまでダンスや宗教儀式など人間の共同活動が幸福感を創出するメカニズムと共通する要素があり、これらの共同活動が集団による笑いと同様に脳内のエンドルフィン放出と関連していることを示唆している。


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Colorda編集部