将来の妊娠&出産希望とは関係なく、子宮環境をととのえておくことは仕事もプライベートも快適に過ごす秘訣。

実際のケーススタディから、「こんなときはどんな検査をした?」「何が原因?」を産婦人科医師が解説、働く女性の子宮環境を考える。

これを読んだら、何もなくてもまずは産婦人科へ行ってみない?(全6回)

2017.8.10

Vol.5 いつか妊娠を望むかも? だったら定期的にレディースドックを受けよう

CASE STUDY05

Y香さん(37歳、2年前に独立して自営業)

月経周期
12歳で初潮を迎えて以降、22歳まで月経は順調。就職した23歳くらいから月経不順があり、何度か婦人科を受診。29歳から避妊と月経不順の治療を目的に低容量ピルの服用を開始、月経に関する問題はとくに感じていない
受診の経緯
未婚だがパートナーがいる。将来妊娠できる身体なのかを知りたくなり来院。なお、社会人になってからは、会社の健康診断を毎年きちんと受けていて、子宮頸がん検診も受けていたが、2年前、35歳で独立してからは健康診断を受けていない

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所要時間

問診と検査で15~20分(内診あり)

どんなことをした?

Check1 事前知識

これまでとくに困った症状などもなく過ごしてきたが、年齢的に40歳が見えてきたこともあって、漠然と「妊娠できるかどうか調べたい」と思い、受診したとのことでした。

Y香さんはレディースドックを受けることで「妊娠可能かどうか」を知ることができると考えていたようです。レディースドックは、身体測定や乳がん検査、子宮頸がん検査などがパッケージになっています。つまり、現在の身体に病気がないか、また健康リスクが高い疾患はないかを調べるもので、「妊娠できるかどうか」を検査したり判定したりするものではありません。もし、自分自身に何か病気があれば、妊娠どころの話ではなくなってしまうからです。たとえば乳がんや子宮頸がんのような大きな病気や甲状腺ホルモン異常などが見つかれば、それらの治療がまず優先されます。

では妊娠できるかどうかについてはどうすればよいかという問題ですが、これはパートナーとともに不妊専門病院で調べることになります。なぜなら、不妊の原因は女性側と男性側で半々だからです。このように考えると、レディースドックと妊娠可否は別の次元の話ということがおわかりいただけると思います。Y香さんにもそのようなお話をしたうえで、身体に異変が起きていないかの診察および検査をすることになりました。

Check2 内診&経腟超音波検査

毎年会社で受けていた子宮頸がん検査では異常がありませんでしたが、内診や超音波検査(エコー検査)などが含まれていなかったそうです。今回、経腟超音波検査を行ったところ、6cm大の漿膜下(しょうまくか)子宮筋腫を認めました。自覚症状はなかったものの、この大きさの子宮筋腫があると、妊娠前に子宮筋腫のみを取り除いて子宮は温存する子宮筋腫核出術を行うのか、先に妊娠を目指していくのかなど、治療方針を個別に相談していく必要が出てきます。子宮筋腫の種類と特徴については、Vol.3で解説しています

Check3 血液検査

会社の一般的な健康診断では、貧血チェックや肝機能検査などは含まれていますが、女性に多く見られる甲状腺機能検査やホルモン検査は通常含まれていません。甲状腺については、機能が過剰になるバセドウ病や低下する橋本病があります。そのどちらも月経不順の原因となり、妊娠しづらくなったり、機能がきちんと正常化していないまま妊娠すると子どもに影響が出たりすることがあります。そこで、甲状腺機能検査を行いました。また、ホルモン検査ではLH(卵胞刺激ホルモン)、FSH(黄体形成ホルモン)、E2(エストロゲン)、PRL(プロラクチン)の数値を確認しました。これら女性ホルモンの役割については、Vol.1で解説しています

この血液検査では、AMH(抗ミューラー管ホルモン)検査もあわせて行いました。AMH検査は自費診療ですが、通称「卵巣年齢検査」とも呼ばれ、発育過程にある卵胞から分泌される女性ホルモンの一種を測定することで、卵巣にどのくらい卵子が残っているのかの推測ができます。

Tips 卵巣年齢

男性の精子は、毎回作られてフレッシュであるのに対し、女性は一生分の卵子を持って生まれてきます。そして、細胞の老化と同様、加齢とともに卵子の数は減っていきます。毎月数百個ずつ減っていくと考えられています。卵子自体の数を測定することはできませんが、原始卵胞とよばれる卵子のもとになる細胞から分泌されるホルモン(AMH)を測ることで、今の同年齢の方たちの平均的な値であるのか、値が低く卵子の数が少なくなっている可能性があるのかなどを知ることができます。

診断結果

漿膜下子宮筋腫

内診で漿膜下子宮筋腫が認められました。血液検査では甲状腺機能は問題ありませんでしたが、PRL(プロラクチン)が高値でした。高プロラクチン血症だと排卵しづらく、ひいては妊娠しにくくなるため、内服薬による治療を開始しました。

メディカル知恵袋

30歳になったらレディースドックで女性特有の病気をチェック

最近では初産の平均年齢は30歳になり、年々妊娠の高齢化が進んでいます。加齢に伴って、さまざまな病気も増えてきます。繰り返しになりますが、レディースドックでは妊娠可能かどうかはわかりません。ただし、妊娠するために問題のない身体状況かどうかはわかります。いざ、妊娠したいと思ったときに初めて受診して大きな病気が見つかり、妊娠が数年先延ばしになる可能性もあります。今は考えられなくても、将来は妊娠を望むかもしれない。その可能性が少しでもあるのであれば、30代に入ったら定期的に検査をしておくとよいでしょう。


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Colorda編集部