2017.6.22
ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がん

「ヘリコバクター・ピロリ菌」への感染が原因の胃がんを調べる検査とは?【感染が原因のがんシリーズVol.1】

5年生存率の差、90%。早期発見が胃がん治療のカギ

厚生労働省「人口動態統計」2015のデータによると、2015年の胃がん死亡者数は男性2位、女性3位。近年、胃がんによる死亡数は減少傾向にあるが、それでもがん全体では上位に位置している。

胃がんは、胃粘膜に発生する悪性腫瘍だ。胃粘膜は、内側から「粘膜層」、「粘膜筋板」、「粘膜下層」、「固有筋層」、「漿膜(しょうまく)下層」、「漿膜」と層になっている。がんの浸潤が粘膜下層にとどまっているものを「早期胃がん」、固有菌層以上に浸潤したものを「進行がん」と分けることができる。

胃がんの5年生存率は、早期発見の1期で97.3%、Ⅱ期65.7%、Ⅲ期47.2%、Ⅳ期7.3%(※1)とステージが進むごとに低くなっていく。このデータからも、胃がんは早期発見、早期治療が重要と言える。

そんな胃がんの原因には、喫煙や食生活などがあるが、なかでもヘリコバクター・ピロリ菌への感染がリスクを高めると評価されていることをご存知だろうか?

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40代以上は感染リスクが高い!? ピロリ菌の感染経路

ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃粘膜上に感染し、胃や小腸に炎症や潰瘍を起こす細菌だ。べん毛を持つらせん状の桿菌(かんきん)で、酸素の存在する大気中では生きることができない。

日本消化器病学会によると、ピロリ菌の感染経路はまだまだ謎が多いが、先進国と発展途上国での感染者数に開きがあること、またヒトの糞便や口腔内からヘリコバクター・ピロリのDNAが検出されていることから、衛生環境が整備されていない時代や地域などでの、糞便から口、口から口などの経路で感染すると考えられている。経口感染の可能性はあるが、免疫機能が十分に発達していない幼児期に感染することがほとんどで、大人になってからの感染リスクは低い。感染ルートは母から子への口移しによる栄養補給、また保育所や幼稚園などで、子どもが嘔吐したものに触れた手で食品を触り、それが口に入った場合などが考えられる。

ピロリ菌の感染には、衛生環境が影響しているため、環境が整った現代の若者の感染は減少傾向だ。同学会によると、「戦後まだ衛生環境のインフラが十分整っていなかった時代に幼児期を過ごした60代以上のひとでは約60~70%と高く、衛生環境が整備されるにつれ、感染率は低下し、現在の10代では10%を切るまでに減少」と示されている。また、「しかし、これから人生後半に向かっていく40~50代以上のひとにとっては、ピロリ菌に感染しているかどうか、また現在の自分の胃の状態がどのようなものであるかを知っておくことは、健康に長生きするための予防医療としても、非常に重要なこと」と明言しており、胃がんリスクを知るためにもピロリ菌検査を受けることを推奨している。

ピロリ菌の感染を調べる「内視鏡」「尿素呼気検査」「抗体測定法」とは?

ヘリコバクター・ピロリ菌の感染を調べる方法は、大きく2つに分けることができる。ひとつは、内視鏡を用いる検査で、胃粘膜の状態を直接観察し、生検を行う方法だ。内視鏡で細胞の一部を取るため、身体への負担がかかる可能性がある。もうひとつは、内視鏡を用いない検査で、尿素呼気検査や抗体測定法などがある。

尿素呼気検査は、通常の状態の息と検査薬を飲んで一定時間後の息の成分を比較する検査だ。ヘリコバクター・ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を持っており、尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する性質がある。尿素呼吸検査で使う検査薬は、胃にピロリ菌がいる場合、分解されてアンモニアと特別な二酸化炭素に分かれる。そして特別な二酸化炭素は息として排出されるのだ。これを呼気中から検出することでピロリ菌の感染を調べることができる。

また、抗体検査法は血液検査で、ピロリ菌に感染するとできる抗体「IgG抗体」が血液中にあるかを調べる。最近では、胃粘膜の萎縮の程度や胃粘膜の炎症の有無などが分かる血液検査であるペプシノゲン検査とセットで受けることで、現在の胃がん発症リスクを判定するケースが増えてきている。このふたつを合わせた検査は、ABC検診と呼ばれている。

胃の内視鏡検査も色々な検査方法があります。
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ピロリ菌に感染していた場合、どうしたら?

ピロリ菌の除菌治療は、内服薬で行われる。2種類の抗生物質と胃酸を抑える薬の3種類を1日2回、1週間飲み続ける。その後、期間をあけてピロリ菌の有無をチェックする。1次除菌で成功しなかった場合、薬を変えて2次除菌を行うことが可能だ。

ピロリ菌の除菌に成功した場合でも、胃がんのリスクがゼロになるというわけではないので、定期的な検査は必要だ。

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胃がんを調べる検査とは?

胃がんの検査には、血液検査やエックス線検査、内視鏡検査などがある。これらの検査で胃がんが疑われた場合は、さらに超音波検査やCT検査などの精密検査を行い、必要に応じて直接細胞を採取し検査することで確定診断を下していく。

※1 全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査「KapWeb」(2016年2月集計)

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上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部