便秘と下痢はなぜ起こるのか?
便秘のおもな原因は、大腸が便を送り出す運動(蠕動運動)の機能低下である。水分や食物繊維の不足など腸内環境の悪化、自律神経の障害や腸疾患などが蠕動運動を阻害する要因となる。またポリープや腫瘍などが原因で便通の障害となって便秘が起こる場合もある。
いっぽう、下痢のおもな原因は腸の蠕動運動の亢進と水分量の調節障害である。食あたりや細菌の混入によって、腸粘膜から腸液の分泌が亢進することで下痢を生じたり、精神的ストレスや暴飲暴食などによって、蠕動運動が過度に活発化し、水分の吸収が追いつかずに下痢を起こす。また、炎症や腫瘍などの腸疾患が消化機能を低下させている場合もある。
便秘と下痢の原因となる腸の疾患と検査
便秘と下痢を繰り返す症状がある場合には、まずはそれぞれの原因となる疾患の有無を検査で明らかにする必要がある。便秘や下痢の原因となる腸内疾患としては、難病と指定されている潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性疾患、またポリープや大腸がんなどの腫瘍が挙げられる。
検査手順だが、まずは血液検査(血球数、CRP値等)や便潜血検査で判断することが多い。ここで異常が認められれば、注腸X線(バリウム)検査や大腸内視鏡検査を行う。内視鏡検査は医師が患部を直接観察できるので結果が明白であり、単純なポリープやがんであれば検査と同時に切除もできるので治療としても有効な手段である。
過敏性腸症候群(IBS)にご用心
ところが、これらの検査で異常がないと診断されても便秘や下痢を繰り返すことがある。このような場合は過敏性腸症候群(IBS)が疑わしい。IBSは腸の蠕動運動などの消化管の運動をつかさどる自律神経に乱れが生じて起こる排便異常である。緊張から下痢を起こすことがあるように、ストレスや生活習慣による心身の疲労が原因とされている。
IBSは近年増加傾向にある疾患で、若年層から中年層に多く見られ、成人の4~5人に1人がIBSであるという報告もある。治療の基本はストレスの解消や生活リズムの改善であるが、症状が重い場合には薬物療法も行われる。消化器内科や心療内科のカウンセリングを受けて治療方針を決定するのが望ましい。

マーソ株式会社 顧問
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)