2016.8.15
がん全般を検出する腫瘍マーカー

精度は低いががん全般を検出する腫瘍マーカー「IAP」

IAPは、免疫を抑制する物質

ThinkstockPhotos-545344104体内にがんの腫瘍ができると、特殊な物質が大量につくられ、血液中に出現する。その特性を利用した血液検査が腫瘍マーカーだ。腫瘍マーカー最前線シリーズ14回目の今回は「IAP」について紹介する。

IAP(Immunosuppressive Acidic Protein)とは「免疫抑制酸性蛋白」の略称だ。IAPは、白血球の1種であるマクロファージから産生され、宿主の免疫能を抑える働きを持つ物質だ。がんのみならず、炎症性疾患でも上昇することがあり、腫瘍マーカーとしての精度は比較的低いといえる。またIAPはマクロファージのほかに肝細胞でも産生されるため、肝障害の影響を受けやすい物質で、肝炎などでも高値を示すことがある。

IAPは、細胞のがん化を促進させる!?

がんは正常な細胞の遺伝子に変異が生じ、形態や機能にさまざまな異常を起こす疾患である。重要な臓器が機能不全に陥れば、死に至ることもあるが、細胞のひとつやふたつががん化することはそれほど大きな問題ではない。そもそも細胞は、分裂を繰り返す過程で、一定数がん化することから避けられない。実はヒトには少数のがん細胞であれば、異物として排除する機構も備わっている。

問題となるのは、細胞のがん化が促進され、がん細胞が増殖することである。ではなぜ、細胞のがん化は促進されるのか。それにはIAPが深く関わっている。本来、ヒトの身体にはがん細胞の増殖を抑える免疫機能が備わっているが、IAPが産生されることで、免疫に抑制がかかってしまうのだ。

IAPの基準値

IAPの基準値は、500ug/ml以下。

IAPが基準値を上回った場合は、がんが疑われる。このとき疑われるのは、肺がんや卵巣がん、それから消化器がんといった悪性腫瘍だ。しかしIAPは、炎症性疾患や血液疾患などでも高値を示すことがあるため、がんに対する特異性はそれほど高いとはいえない。

逆にIAPが基準値を下回った場合は、肝機能の低下や栄養不良を示唆する。たとえば肝硬変ではIAPの産生が低下する。尿にタンパク質が流れ出る疾患であるネフローゼ症候群では、IAPが尿中へと排泄されるため、血中濃度が低下するなどの変化が現れる。ともあれ、IAPが異常値を示した場合は、別の検査項目や画像検査などを併用することが必要となる。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部