2016.9.26
前立腺がん

前立腺がんの検査方法と治療法

患者数が年々増加傾向の前立腺がん

Male anatomy of human organs in x-ray view日本人の2人に1人がかかり、3人に1人が死亡すると言われているがんは、医療技術の進化により早期発見が可能になってきている。がんの検査方法と治療法シリーズ第11回は、近年、大腸がん同様、罹患率が増加傾向にある前立腺がんについて紹介する。

前立腺は男性にのみ存在する臓器で、前立腺液を貯留する役割を担っている。前立腺がんは、前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を喪失し、自己増殖することにより発生する。多くの場合、進行は比較的ゆっくりであり、早期発見できれば治癒することも可能ながんである。膀胱の直下に位置していることから、腫瘍が発生すると膀胱を圧迫し、頻尿や排尿困難といった症状が現れることがある。しかし初期症状は乏しく、また前立腺がんは、近くのリンパ節や骨に転移するケースも少なくない。そんな前立腺がんの発見に役立つ検査方法を紹介する。

直腸診と経直腸的超音波検査の比較

前立腺がんの検査では、血液検査が実施する。厳密にはPSA検査と呼ばれるもので、前立腺がんを発症した際に多量に産生されるPSAの値を測る。PSAは精度が高い腫瘍マーカーであり、血液を採取するだけなので患者への負担も少なく、有用性の高い検査といえる。PSA検査は、前立腺がんを早期発見するための最も有用な検査なのだ。

血液検査によって前立腺がんの疑いが高まったら、次に直腸診や経直腸的前立腺超音波検査が行われる。両検査の特徴を比較した表を以下に示す。

時間 費用 精度/th>
直腸診 同等 やすい 不安定
超音波 同等 高い 安定

前立腺がんの直腸診では、医師が肛門から直接指を入れて、前立腺の状態を調べる。前立腺の大きさや硬さ、表面の性状などを指の感覚を通じて診査する。そのため、検査の精度は医師の熟練度に依存することになる。

一方、経直腸的前立腺超音波検査では、肛門から挿入した超音波探触子を通じて、前立腺の状態を描画することが可能だ。腫瘍が生じている部分は黒い影として現れるため、直腸診ほど、検査の精度は医師の熟練度に依然しない。費用は、経直腸的前立腺超音波検査のほうが高い。

針生検により確定診断へ

直腸診や経直腸的前立腺超音波検査で腫瘍の有無が確認できたら、MRIやCTによって腫瘍の広がりや転移なども調べる。そして最後に確定診断を下すために、生検を実施する。針生検と呼ばれるもので、直腸からバイオプティガンという自動生検装置を挿入して、前立腺の組織を採取、検査する。

前立腺がんの治療法

前立腺がんの治療は、外科療法、放射線療法、内分泌療法などを病態に応じて組み合わせながら進められる。初期の前立腺がんで、転移などのリスクが低い状態であれば、血液中のPSA濃度を観察するPSA監視療法、簡単に言うと経過観察のみが行われるケースもある。

中リスクになると、外科療法をメインに複数の治療法を組み合わせて対応していく。これが高リスクになると、治療法の選択肢は狭まり、前立腺がんの末期になると、ホルモンをコントロールする薬を処方する内分泌療法のみで対応するケースが多い。

前立腺がんは比較的進行が遅いため、早期で発見されるほど、治療の選択肢が増え、完治する可能性も高くなる。早期発見のカギを握るのはPSA検査であり、前立腺に不安のある人は定期的にPSAの値を観察していくことをおすすめしたい。前立腺がんは年齢とともにリスクが上がる。50代からは年に一度はチェックしてほしい。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部