2015.6.4

不妊を招く「性器クラミジア感染症」に注意

一見無害に見えるからこそ、怖い

性感染症性感染症を指す略語は、STD (Sexually Transmitted Diseases)だけではない。「STI(sexually transmitted infections)」。「Infection」は感染や感染症といった意味を持つ。STDの「Diseases」は病気を意味するが、どちらも「性感染症」を表しており、あえて使い分ける必要はないといえよう。

性行為によって感染するSTIは、症状が軽度のことや、自覚しないことも多く、未治療のまま放置する間に感染を周囲に広げるうえに、本人の病状もじわじわ進行する。このSTIでもっともありふれている疾患のひとつが、性器クラミジア感染症だ。

クラミジアは細菌の一種で、もともと眼の粘膜に炎症を起こす病気「トラコーマ」の原因として発見された。眼と同じような組織は、性器や直腸、のどなどにあり、クラミジアはそこにすみつく。男性の場合、尿道に居つかれると、日々のトイレで違和感を抱くはずだが、感染者の約半数は全く気づかないという。20代で症状のない男性に尿検査をすると、つねに4〜5%の感染者が見つかると言われ、女性でも、約80%の感染者に症状がないという。

女性では、クラミジアは子宮の入り口(頸部)に感染するが、この部分はもともと感覚がなく、変化があっても、おりものと呼ばれる分泌物が増える程度。女性は普段から、月経周期や体調でのおりものの変化を経験済みなので、STIを知らないと感染を見過ごしてしまう。クラミジアが本当に怖いのは、ここからだ。

その蔓延ぶりは“環境汚染”に匹敵!?

「本人の自覚」という関門をすり抜けるクラミジアは、感染を放置すると炎症を起こしながら身体の奥へと進む。女性では、子宮頸部から卵管に入り込み、さらに進んで周辺組織の癒着をひき起こす。腸や内臓周辺などに癒着が広がり、下腹部に痛みを覚える頃には、卵管が変形したり塞がったりして、受精卵の捕捉という妊娠に欠かせない機能が失われてしまっていることが多い。また妊娠中の感染は、流産や早産の原因となり、出産時には新生児に感染し、眼の結膜炎や肺炎を引き起こす。

男性側も、感染が精巣周辺に進むと、精子を尿道に運ぶ精管が塞がって、精液のなかに精子がない、無精子症の原因になる。クラミジア感染の長年の放置は、不妊症という姿で、その姿を表すことがあるのだ。

自分やパートナーのクラミジア感染がわかったら、もう一方も検査を受け、ふたり一緒に治療することが肝心だ。オーラルセックスでも感染するので、完璧を期すにはのどの粘膜も検査してもらおう。
 
さらに大切なのが、治療後の再検査だ。体内からクラミジアが駆逐されたかが確認できないと、せっかくの治療も意味がない。症状が出ないクラミジアに打ち勝つ方法は、コンドームで感染を防ぎつつ、検査で見つけ出し、抗生剤の服用で“確実に治す”こと以外にない。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部