2016.11.21

身体にとって敵にも味方にもなる「常在菌」とは?

誰もが持っている常在菌

Bacteria and bacterium cells medical illustration of bacterial disease infectionヒトは、産まれると同時に菌に感染する。胎内では無菌状態にあるが、母親の産道から、また外気や周囲の人間から、口や肛門に菌が付着するのが感染のきっかけだ。これらの細菌が、口腔内、皮膚、消化管に住み着くようになり、常在菌と呼ばれるものになる。口腔内にはミュータンス菌など約700種類が1,000億個以上、皮膚にはブドウ球菌、アクネ桿菌(かんきん)など200種類以上が約100万個、腸内細菌は乳酸菌、大腸菌をはじめ約400種類が100兆個以上存在する。そして、よい働きと悪い働きの両方をしながら、身体と共生している。

口腔内を守るには?

常在菌のひとつであるミュータンス菌は、新生児のときに、口移しや食器の共有により、母親やまわりの人たちの唾液が口に入ることにより定着する。ミュータンス菌は、歯垢(プラーク)となって歯の表面に付着し、虫歯や歯周病の原因になる。予防策は、虫歯の多い大人がかんだ食べ物を新生児に与えないこと。また、唾液の分泌が加齢とともに減り、口腔内の雑菌を自浄する力が低下すると病気に罹りやすくなる。食べ物はよく噛んで唾液を出すことと、マメな歯磨きや定期的なクリーニングなどで、口腔内を正常に保つことが病気の予防につながる。

皮膚トラブルは常在菌ともかかわりが…

皮膚には、自然界に存在するブドウ球菌やミクロコッカス属の菌、マラセチア菌、カンジダ菌、白癬菌などが生息し、毛が生える部分である毛包や汗が出る部分の脂腺にはアクネ桿菌などがある。表皮ブドウ球菌は、皮膚を弱酸性に保ち、黄色ブドウ球菌やアクネ菌の繁殖や臭いを抑える働きをしている。また、アクネ桿菌は、皮脂膜を作り外敵や紫外線から肌を守っている。しかし一方で、身体の調子や栄養状態が悪いと、黄色ブドウ球菌は感染症の原因に、アクネ桿菌はニキビのもとになることも。菌とうまく共生するには、身体のコンディションを整えることが第一だ。

腸内細菌とのよい関係が健康のカギ

腸内細菌は腸内フローラと呼ばれる細菌叢(さいきんそう)を作っており、栄養の供給、消化できない食べ物の代謝、感染症の防止、免疫力を保つなど、生きるうえで必要不可欠な働きをしている。腸内細菌は、ヒトが食べたものから栄養をもらって繁殖し、腸管内に生息している。腸内フローラのバランスが崩れると、便秘や下痢、食中毒、敗血症、大腸炎、肥満、アレルギーなどさまざまな病気を引き起こしやすくなる。

腸内フローラを改善するには、抗生物質を使うか、腸内に有効な菌を与えるかの方法がある。ただ、抗生物質を用いるのは病原菌が繁殖している場合に限られ、かえって症状を悪化させる場合もあるため、通常は乳酸菌やビフィズス菌、酵母を摂取して改善させることが多い。

口腔内、皮膚、腸内のどれにおいても、常在菌をうまく働かせるには身体の状態が影響する。不規則な生活や暴飲暴食で身体を疲れさせると、自分の持っている常在菌によって病気になることを覚えておきたい。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

Colorda編集部