靴を履くことで退化した足
人間の足は、直立二足歩行という特異な運動様式を持っているために、構造上もさまざまな特徴がある。「土踏まず」もその特徴のひとつであるが、足裏にアーチを形成することにより着地の衝撃を吸収するとともに、姿勢や歩行の制御、階段の昇り降りの制御などあらゆる立位での運動制御に関与している。
しかし、多くの現代人はアスファルトの上を固い靴底の革靴をはいて歩き、会社のオフィスでも靴をはいて仕事をしている。つまり、アーチを形成している26個の骨はほとんど機能しない生活様式になっているのだ。
靴の機能が進化しすぎたために足の過保護が原因となって土踏まずが成長しない「扁平足」が増えているのも、このような生活様式の弊害かもしれない。
裸足のトレーニングで事故から復活
自転車競技やスピードスケートの米国オリンピックチームのコーチとして有名なマイケル・サンドラーは、2004年に自転車でアメリカ大陸を横断。2006年にはロサンジェルスからニューヨークまで全長4000マイルをインラインスケートで横断することを計画した。コロラド州ボルダーでこの計画を実行するためのインラインスケート練習中に突如目の前に子どもが道を横切った。衝突を避けようとしたマイケルは自ら路面にスライディングして子どもとの衝突を回避した。このスライディングで身体を強打、腰と腕と足3ヶ所を骨折。左足の大腿骨と股関節にはチタンが埋め込まれた。事故後2ヶ月間は松葉杖、4ヶ月目で腰のピンが取れ、6ヶ月後に奇跡的に復帰を果たしたが、チタンが埋め込まれた左足は右足より1インチ長く、最初はスムーズに歩くことさえできなかった。
しかし、不屈の精神の持ち主だったマイケルは裸足でのトレーニングを開始、左右の下肢長差による運動器障害を克服することに成功。裸足のランナーとして見事に復活した。「裸足で地面に接することにより、足の裏から入力される複雑な情報をもとに脳内でマップが構築されている」とマイケルは自らの著書『ベアフットランニング』で力説する。このマップを使って歩いたり走ったりしているので、左右の足の物理的な長さの違いは自動的にこのマップのなかで調整され生理学的には左右の足が同じ長さになっていると考察する。
裸足感覚シューズのススメ
メキシコの銅峡谷という秘境に住むタラウマラ族は、室内履きのようなサンダルで気の遠くなるような長距離を走ることができる民族として有名だ。タラウマラ族の走りもマイケルの走り方と共通点が多い。
かかとから着地しないで拇指球(ぼしきゅう)と呼ばれる、親指の付け根の膨らんだ部分から着地、重心がかかとに移動するときにはアキレス腱が緩衝系になり着地のインパクトが吸収され膝への負担が解消されている。
そうはいっても、いきなり裸足やサンダルで走るのは多くの日本人にとっても抵抗があるだろう。最近では裸足(ベアフット)感覚で走れるシューズが発売されている。まずは「裸足感覚シューズ」からウォーキングやジョッギング、ランニングを楽しんでみよう。