がん検診

乳がん検診で見つかる「石灰化」とは? 乳がんの確率や精密検査の内容を解説

乳がん がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

乳がん検診で「石灰化」が見つかると、“乳がん”の文字が頭をよぎるかもしれません。しかし、石灰化が乳がんなどの病気を引き起こすわけではありません。石灰化の背景にはなんらかの原因があり、重要なのはその原因を突き止めることです。本記事では、石灰化とは何か、乳がんが見つかる確率、石灰化に対する精密検査の内容や費用について解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・乳がん検診を受けて石灰化があると言われた方
・石灰化が見つかり、乳がんである確率を知りたい方
・石灰化で乳がんが疑われて要精密検査になったため、検査内容や費用を知りたい方

★この記事のポイント
・石灰化はなんらかの疾患や症状が原因で沈着したカルシウムで、石灰化自体は悪さをしない
・マンモグラフィの画像上で、石灰化は白い砂の集まりのように見える。医師は、配列や分布、1粒あたりの形状などから、乳がんによる石灰化かどうかを診断している
・石灰化が見つかった場合、乳がんの疑いである確率は約2割。残りの約8割は良性疾患で精密検査の対象にはならず、経過観察となる
・石灰化で見つかる乳がんの約8割は、非浸潤がんと言われるステージ0の乳がんで、ほぼ完治を目指せる
・石灰化の精密検査にはマンモグラフィ下で行う吸引式乳房組織生検が有効で、費用は25,000~30,000円程度(3割負担の場合)

乳がん検診で見つかる石灰化の正体は、沈着したカルシウム

乳がん検診における「石灰化」はマンモグラフィで検出され、画像上では真っ白な砂粒が点状あるいは連なっているように見えます*1石灰化のサイズは多くが1mm以下で、しこりのように手でふれられるものではなく、石灰化が生じても自覚症状が出ることはありません

石灰化はなんらかの原因によって沈着したカルシウムの集まりのことで、体内のいたるところでさまざまな原因によって生じます。乳房の場合、乳汁を分泌する乳腺内に生じたカルシウムのかたまりです。石灰化自体が悪さをするわけではありません。問題は「石灰化の原因が何であるか」であり、マンモグラフィでは石灰化の形態や分布などから、原因が良性あるいは悪性(乳がん)疑いかを画像で診断します。

石灰化の多くは良性の疾患や症状によるものです。このような良性疾患が原因と診断された場合、マンモグラフィによる乳がん検診の所見として「石灰化」と記載されるものの、再検査や精密検査の対象とはなりません。一方、乳がんの疑いがある場合は「異常あり」として要精密検査となります。なお乳腺超音波(エコー)検査(以降、乳腺エコー検査)は、乳房の石灰化の発見が得意ではありません。

石灰化が見つかったらどうしたらいい? 乳がんである確率は?

石灰化のうち、乳がんが疑われるのは約2割

日本赤十字社熊本健康管理センターが公開した2020年度のデータによれば、健康診断の一環や人間ドックでマンモグラフィを受診した方のうち石灰化の所見があったのは3.6%で、そのうち要精密検査となったのは18.6%でした*2。つまり、石灰化のうち乳がんの疑いがあるのは約2割、残り約8割は良性という診断結果でした。また、要精密検査者全体を原因別でみると、石灰化の割合は22.5%でした*2

なお、別の調査データでは、良性疾患による石灰化のうち8割が乳腺症であったと報告されています*3。乳腺症とは、女性ホルモンのバランスが崩れることによって起こると考えられている乳腺の病変の総称で、乳房に張りや痛みを生じたり、乳頭から分泌物が出たりするなどの症状をともないます。良性であれば治療は不要です。

マンモグラフィの検診カテゴリーと乳がんの確率

乳がん検診では、マンモグラフィの結果から、石灰化や腫瘤(しこり)、陰影などの所見に基づき、乳がんの可能性を診断します。下記は、マンモグラフィの検診カテゴリーです*4

<マンモグラフィの検診カテゴリー分類*4

カテゴリー1異常なし
カテゴリー2明らかに良性と診断できる所見がある
カテゴリー3良性、しかし悪性を否定できず(3-1と3-2に区別される)
3-1:ほぼ良性。良性の可能性が高く、悪性の可能性は極めて低い
3-2:良性の可能性が高いが、悪性も否定できない
カテゴリー4悪性疑い。悪性の可能性が高く、良性の可能性もあり細胞診、生検が推奨される
カテゴリー5悪性。ほぼ乳がんと考えられる

医療施設によってはカテゴリー3-1と3-2に分けられておらず、カテゴリー3としてまとめられていることもあります。精密検査が必要になるのはカテゴリー3以上です*4。精密検査ではカテゴリーに応じて、マンモグラフィの追加撮影や乳腺エコー検査、細胞診や組織診(生検)が行われます*5。今後の検査の内容は受診した医療施設で確認してください。

これまでの統計データから、一般に乳がんが見つかる確率は、カテゴリー3で5~10%、カテゴリー4で30~40%、カテゴリー5で80%以上と言われています。石灰化が見つかったカテゴリー3~5の方を対象とした宮城県対がん協会乳がん検診のデータでは、精密検査を経て乳がんと診断されたのはカテゴリー3で6%、カテゴリー4で33%、カテゴリー5で100%だったという報告があります*6カテゴリーの数値が高いほど乳がんの確率は上がりますが、いずれにおいても、乳がんである可能性もあれば、乳がんでない可能性もあります。再検査もしくは要精密検査の判定が出たら、まずは乳腺専門の医療施設を受診し、医師の指示に従い検査を受けましょう

石灰化で見つかる乳がんの約8割は非浸潤がんで、ほぼ完治を目指せる

乳がんは、がん細胞の広がりによって非浸潤がんと浸潤がんに分けられます。非浸潤がんはがん細胞が乳管や小葉の中にとどまっているステージ0の乳がん、浸潤がんは乳管や小葉の膜を破って周囲に広がっている段階の乳がんです*7,*8。乳管と小葉はいずれも乳腺組織のひとつで、乳管が母乳を乳頭まで運ぶ管、小葉が母乳を作る場所のことです*9

石灰化で乳がんが見つかっても、非浸潤がんであることがほとんどです。実際に、日本国内で報告された4論文の合算データでは、石灰化によって見つかった乳がん患者のうち、非浸潤がんであった患者は82.6%でした*10。国立がん研究センターの集計によれば、非浸潤がん(ステージ0)の5年相対生存率は100.0%で*11、この段階で適切な治療が行われれば、転移や再発をすることはほとんどないと考えられています。

乳がんの治療には、おもに手術、放射線療法、薬物療法(内分泌療法、化学療法、分子標的治療など)があります*12。これらの治療を単独で行う場合と、複数の治療を組み合わせる場合があり、がんの性質や病期(ステージ)、進行の程度、身体の健康状態、年齢、合併するほかの病気の有無に加えて、患者の希望を考慮しながら治療法が決められていきます。非浸潤がんでは手術と放射線療法が多く、薬物療法はあまり行われません*7。手術の術式は、乳房の一部組織のみを切除する乳房温存手術、非浸潤がんの広がり具合によっては大胸筋と小胸筋を残してすべての乳房を切除する乳房全切除術が行われます。なお、手術によって失われる乳房に対しては、シリコンの挿入や身体の一部の移植による乳房再建が検討されます。

マンモグラフィで見つかる石灰化。良性と悪性の判断の仕方とは?

マンモグラフィで発見される石灰化は、その分布の仕方や形、大きさ、濃淡などから、原因となる疾患・症状が良性であるか悪性であるかを総合的に判断します。

明らかに良性と判断される石灰化には、いくつか代表的な特徴があります。おもな例は下記です*13
・皮膚の石灰化
・血管壁の石灰化
・線維腺腫(せんいせんしゅ/良性の病変)による石灰化
・中心が透けた円形または楕円形の石灰化
・乳管や小葉などに沈殿したカルシウムによる石灰化
など

一方で、悪性が疑われる石灰化の特徴は下記です*13
・微小円形石灰化(1mm 以下の円形または楕円形の石灰化)
・淡く不明瞭な石灰化(非常に小さいか淡いために明確な形態分類が不可能な石灰化)
・多形性石灰化(さまざまな形や大きさ、濃淡のある石灰化)
・微細線状・分枝状石灰化(細長い枝状の石灰化)
など

ただし、上記の悪性の特徴にあてはまっているように見えても、乳がんではない場合があります。医師の判断に従ってください。また、不安に感じる点や疑問に思うことがあれば質問するようにしましょう。

石灰化を治す方法は? 消えることはある?

冒頭の「乳がん検診で見つかる石灰化の正体は、沈着したカルシウム」でふれた通り、石灰化自体は悪さをするものではないため、消失させるための治療は必要ありません。石灰化の所見はあるものの良性と診断された場合、次回の乳がん検診で再度石灰化を指摘されることは往々にしてあります。一方で、一度指摘された石灰化が消えることはまれにあると言われています。

大切なのは、石灰化の原因が乳がんによるものかどうかを診断することです。疑問点や不安なことは医師に質問あるいは相談するようにしましょう。

石灰化に対する精密検査の内容は? 費用はいくら?

石灰化の精密検査はマンモグラフィ下での吸引式乳房組織生検が有効

一次診断で乳がんが疑われた際の精密検査には、マンモグラフィの追加検査や乳腺エコー検査のほか、細胞診と組織診(生検)があります*14細胞診とは、乳房に採血で使うような細い針を刺し、注射器で吸い出した細胞を染色し顕微鏡で観察する検査です。多くの場合は、局所麻酔なしで施行され短時間で終わります。組織診は、細胞診よりも太い針を刺して多くの組織を体外に取り出し、染色して観察する検査です。使用する針が太いため、局所麻酔が必要です。組織診には、針生検(針を使って組織を採取)と外科的生検(手術で組織を採取)があり、さらに針生検は、組織を採取する機器に種類によって、コア針生検と吸引式乳房組織生検に分けられます。

吸引式乳房組織生検とは、吸引力を利用して組織を採取する検査で、マンモグラフィや乳腺エコー検査で病変を描出しながら行われます。マンモトームやバコラという商品名の機器が用いられるため、マンモトーム生検やバコラ生検と呼ばれることもあります*14

石灰化はマンモグラフィでしか検出されないため、石灰化に対する精密検査では、マンモグラフィで撮影しながら石灰化のある組織を針で採取する吸引式乳房組織生検が有効です*14局所麻酔を用いて痛みを抑えて検査するもので、通常、入院の必要はありません。採取に要する時間は15~20分ですが、その後止血の手当やしばらく安静にする時間がもうけられるため、検査時間は30分~1時間程度が見込まれます。

石灰化の精密検査の費用は保険適用

石灰化に対する精密検査は保険適用となります。実際にかかる費用は、検査の種類によって異なりますが、それぞれ以下のとおりです(初診料や再診料は別途)。マンモグラフィ下での吸引式乳房組織生検は、追加検査と比べて高額な検査です。

<精密検査の費用目安(3割負担)>
●追加検査
・マンモグラフィ:3,000円程度
・乳腺エコー検査:2,000円程度
・マンモグラフィ+乳腺エコー検査:4,000円程度
●マンモグラフィ下での吸引式乳房組織生検:25,000~30,000円

参考資料
*1.日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版 Q6.乳がんの診断はどのようにして行うのでしょうか。
*2. 日本赤十字社熊本健康管理センター 令和2年度 事業実績報告書 検査データ 11.乳房 (2)マンモグラフィ
*3. 大田浩司ら「石灰化診断における年齢因子の重要性」日本乳癌検診学会誌 2011, 20(3)SEP.
*4.日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン2018年版 総説4 マンモグラフィガイドラインとBI―RADSのカテゴリー分類について
*5. 日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン2018年版 総説5 検診カテゴリーと診断カテゴリー
*6.宇佐美伸ら「検診発見の微細石灰化病変に対する診断方法についての検討」日本乳癌検診学会誌 2004, 13(2)JUN.
*7.日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版 Q19.初期治療の考え方と全体の流れについて教えてください。
*8.国立がん研究センター希少がんセンター 特殊型乳がん
*9.国立がん研究センター東病院 乳がんについて
*10.日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン2022年版 FRQ3 マンモグラフィ検診の淡い集簇石灰化病変にマンモグラフィガイド下生検は必須か?
*11.国立がん研究センター がん対策研究所 がん登録センター「院内がん登録 2013-14年5年生存率集計」(2021)
*12.国立がん研究センターがん情報サービス 乳がん 治療
*13. 舘沼理保奈「マンモグラフィの基礎~読影編~」 埼玉県診療放射線技師会 会誌『埼玉放射線』2020, 68(3)JUL.
*14.日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版 Q7.穿刺吸引細胞診や針生検はどのようなときに行われますか。

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上昌広
こちらの記事の監修医師

特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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