健康診断の結果に再検査や精密検査があったら、どう対処すればいいのでしょう。健康診断で引っかかりやすい項目から二次検査(再検査、精密検査)の通知を受けたあとの行動、費用の目安まで紹介します。
★こんな人に読んでほしい!
・健康診断で再検査や精密検査があり、不安な方や受けるかどうか迷っている方
・再検査や精密検査をどこで受ければいいかわからない、予約が必要か知りたい方
・再検査や精密検査の費用の目安を知りたい方
★この記事のポイント
・健康診断で引っかかる人は年々増加。2020年は約6割が「所見あり」
・再検査を総合病院、大学病院で受けたいときは医療施設に相談しよう
・再検査や精密検査は保険適用。費用は検査、医療施設によってさまざま
・再検査の費用がかからないケースもある
・身体の状態を知るためにも、健康診断の再検査・精密検査は必ず受診を
目次
再検査・精密検査があったら。引っかかりやすい項目は? 無視するとどうなる?
健康診断を受けた約6割がなんらかの「所見あり」
健康診断の結果に「再検査」や「精密検査」の文字があったら、誰でも不安になるものです。しかし、それほど珍しいことではありません。厚生労働省の「定期健康診断結果報告*1」によると、定期健康診断(会社が年1回実施する健康診断)で異常の所見があった人の割合(有所見率)*2は年々上昇しており、2020年は58.5%が有所見となっています。
1995年 | 2000年 | 2005年 | 2010年 | 2015年 | 2020年 | |
---|---|---|---|---|---|---|
有所見率(%) | 36.4 | 44.5 | 48.4 | 52.5 | 53.6 | 58.5 |
データで見る、健康診断で「所見あり」になりやすい項目TOP5
以下は「定期健康診断結果報告」の2020年のデータにおいて、有所見率が高かった検査項目の上位5つと、参考として異常が認められる場合に疑われる病気やリスクをまとめたものです。
検査項目 | 有所見率(%) | 疑われる病気・リスク | |
---|---|---|---|
1位 | 血液検査【脂質】 | 33.3 | 脂質異常症、動脈硬化など |
2位 | 血圧 | 17.9 | 血圧が高い場合:脳卒中(脳梗塞・くも膜下出血・脳出血)、心臓病など |
3位 | 血液検査【肝機能】 | 17.0 | 急性肝炎、慢性肝炎、アルコール性肝障害、肝硬変、膵炎など |
4位 | 血液検査【血糖】 | 12.1 | 糖尿病、膵臓がんなど |
5位 | 心電図 | 10.3 | 不整脈、狭心症、心筋梗塞、心肥大など |
※厚生労働省「定期健康診断結果報告 定期健康診断実施結果(年次別)」をもとに編集部で作成
有所見率が高かった項目の1位は「血中脂質(33.3%)」で、定期健康診断を受けた人のうち3人に1人が有所見と診断されています。以降は「血圧(17.9%)」「肝機能(17.0%)」と続き、生活習慣病に関連する項目が上位を占めています。
健康診断の再検査・精密検査はいつまでに受ける必要がある?
健康診断の再検査や精密検査の受診時期は、健康診断の結果報告書の総合判定・総合所見欄などに記載されています。再受診の時期についての指示は医療施設によって異なります。再検査は3ヶ月後または6ヶ月後に再受診としている医療施設が多く、再検査が必要な項目や数値などによって再検査の時期が判断されます。
精密検査の場合、「1ヶ月以内に受診を」など受診時期の目安が記載されている場合もあれば、早めの受診を促す文言のみで具体的な時期についてはとくに明示されていないこともあります。より詳しい検査が必要と判断されていることを考えると、先延ばしせずできるだけすみやかに受診することが望ましいでしょう。受診時期について迷う場合は、健康診断を受けた医療施設にお問い合わせください。
健康診断の再検査や精密検査を無視して受けないとどうなる?
健康診断の結果は前日の食事や行動、その日の体調などさまざまな要素によって左右されることがあるため、所見(異常)あり=病気であるとは言い切れません。たまたま数値が悪かったのか、あるいは病気のサインなのかを調べるために、二次検査(再検査、精密検査)があります。二次検査の結果、一時的に数値が悪かったことがわかれば安心でき、病気が見つかったとしても早期であるほど対策しやすく、身体への負担も経済的負担も少なくすみます。
病気が見つかるのが怖い、時間がないなど、二次検査に足が向かない理由は人それぞれでしょう。しかし、自身の身体をいたわり、管理できるのは自身のみです。再検査や精密検査の指示があったら、先延ばししたり無視したりすることなく必ず受診しましょう。
「再検査」と「精密検査」はどう違う? 健康診断の判定を解説
健康診断の結果は、基準値(基準範囲)を踏まえて何段階かに分けたアルファベットで示されます。区分は医療施設によって異なります。ここでは日本人間ドック学会の判定区分*3を例に挙げます。
<日本人間ドック協会の判定区分>
判定区分 | |
---|---|
A | 異常なし |
B | 軽度異常 |
C | 要再検査・生活改善 |
D | 要精密検査・治療 |
E | 治療中 |
Aは所見なし、Bは基準値をわずかに超えているが再検査などの必要はない状態を指します。
Cは文字通り再検査が必要な状態です。医療施設によっては「C12:年1回の健診で経過観察」「C3:3ヶ月後に再検査」など、程度によって細かく区分していることがあります。再検査では、健康診断での異常が一時的なものかを確かめるため、基本的に健康診断と同じ検査が行われます。その結果、異常がなければ経過観察、再度異常が認められた場合は精密検査に進みます。
Dはより詳しい検査を必要とする、あるいは治療が必要な状態です。「要精密検査」と「要治療」を別の区分としている医療施設もあります。精密検査では、異常の原因を探るためのより詳しい検査が行われます。MRIやCTなど、精密医療機器を要することもあります。「要治療」は明らかに治療が必要な場合の判定です。すみやかに専門医にかかりましょう。
Eは治療を受けている項目に記されます。
健康診断の再検査・精密検査はどこで受ける? 何科にかかればいい? 再検査項目ごとの診療科一覧
二次検査の選択肢は「健康診断を受けた医療施設」「かかりつけ医」「総合病院、大学病院」の3つ
健康診断の結果、二次検査(再検査・精密検査)が必要とされた場合の受診先には大きく以下3つの選択肢があります。
パターン1:健康診断を受けた医療施設
健康診断を受けた医療施設には検査データやカルテがあるため、二次検査がスムーズです。初診料、データ発行料、紹介状などの費用もかかりません。
パターン2:かかりつけ医、または近所のクリニック
かかりつけ医が二次検査に対応している場合は、健康診断の結果を持っていくことで二次検査を受けられます。紹介状は不要です。
「かかりつけ医はいないが、健康診断を受けた医療施設が遠い」などの理由から近くのクリニックで受診したいときは、クリニックが二次検査に対応しているか確認のうえ、結果を持って受診しましょう。初診の場合初診料が発生しますが、紹介状は不要です。
パターン3:総合病院、大学病院
総合病院や大学病院の多くは、精密医療機器を要する検査にも対応しています。ただし、受診には紹介状が必要です(「総合病院、大学病院の受診には紹介状が必要」を参照)。
上記を踏まえた二次検査の受診先選びのポイントが以下です。
- 医療施設が、自身が必要とする再検査や精密検査に対応しているかを事前にチェック
- 二次検査に対応していれば、かかりつけ医でも受診可能。紹介状は不要
- 別の医療施設で二次検査をする際、諸費用がかかる場合がある(本記事「健康診断の再検査・精密検査は保険適用。初診料、データ発行手数料などかかる費用まとめ」を参照)
- 総合病院や大学病院での受診は紹介状が必要
何科にかかればいい? 引っかかった項目別、診療科一覧
肝機能の再検査はどこで受ければいいのかなど二次検査(再検査・精密検査)の受診先で迷う方のために、会社が実施する定期健康診断*4の検査項目と、受診先の診療科をまとめました。下記以外の検査項目や不明な点は、健康診断を受けた医療施設に問い合わせてください。
<定期健康診断の検査項目と二次検査の受診先の診療科>
定期健康診断項目※ | 検査項目 | 診療科 |
---|---|---|
血圧 | – | 内科、循環器内科 |
血液検査【貧血】 | 赤血球(RBC)、血色素(Hb) | 内科、血液内科 |
血液検査【肝機能】 | GOT(AST)、GPT(ALT)、γ(ガンマ)-GTP | 内科、消化器内科 |
血液検査【脂質】 | HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪(TG) | 内科、消化器内科 |
血液検査【血糖】 | 血糖値(FPG)、HbA1c(ヘモグロビンA1c) | 内科、糖尿病内科 |
尿検査 | 尿糖、尿蛋白 | 内科、腎臓内科、糖尿病内科 |
視力検査 | – | 眼科 |
聴力検査 | – | 耳鼻咽喉科 |
胸部X線(レントゲン)検査 | – | 内科、呼吸器内科 |
心電図検査 | – | 循環器内科 |
※既往歴・業務歴の調査、自覚症状・他覚症状の有無の検査、身体計測、喀痰検査は除く
健康診断の再検査・精密検査に予約は必要か
健康診断の二次検査(再検査・精密検査)を受診する際は、基本的には事前に受診を希望する医療施設へ問い合わせると安心です。かかりつけ医で血液検査の再検査のみ希望するなどの場合は予約なしでも対応してもらえる場合もありますが、近年は感染症対策などの観点から二次検査においても要予約とする医療施設が増えています。なお、二次検査でCTやMRIといった専門的な機器を要する場合や内視鏡などの時間がかかる検査を実施する場合、総合病院や大学病院で二次検査を受ける場合は予約が必須であることがほとんどです。
総合病院、大学病院の受診には紹介状が必要
先述の「二次検査の選択肢」でも触れたように、総合病院や大学病院といった規模の大きな病院(特定機能病院、許可病床数が200床以上の地域医療支援病院)*5で二次検査(再検査・精密検査)を受ける場合、健康診断を受けた医療施設からの紹介状が必要となります。紹介状が発行されるケースはおもに以下2つです。
- 健康診断を受けた医療施設から大病院での精密検査が必要だと診断される
- 受診者が大病院での二次検査を希望する
どちらの場合も、紹介状の発行手数料や必要に応じて画像データ等の発行手数料などがかかります。
紹介状なしで大病院にかかると、診察料のほかに特別な料金(初診7,000円以上、再診3,000円以上)*5が発生します。また、大病院の多くは予約制です。大病院での二次検査を希望する場合は、事前に健康診断を受けた医療施設に相談することが望ましいでしょう。
健康診断の再検査・精密検査の費用はどれくらい?
健康診断の再検査・精密検査は保険適用。初診料、データ発行手数料などかかる費用まとめ
会社が実施する定期健康診断の費用は会社が負担するため、受診者の費用負担はありません(オプション検査等を除く)。一方、二次検査(再検査、精密検査)の費用は基本的に受診者が負担します。費用は保険適用となり、原則3割負担です。
このほか、二次検査を別の医療施設で受診する場合は、以下の費用がかかるケースがあります。
- 初診料(初めてかかる医療施設の場合)
- 画像データ等(X線(レントゲン)検査、超音波(エコー)検査、マンモグラフィなど)の発行手数料
- 紹介状の発行手数料(大病院の場合)
健康診断の再検査・精密検査の費用目安
参考までに、健康診断の二次検査(再検査・精密検査)の費用の目安(保険適用、3割負担)をまとめました。ただし、下記はあくまで目安であり、費用は検査項目や検査方法、医療施設によっても異なります。詳細は受診を予定している医療施設へ問い合わせてください。
- 血液検査:2,500~3,000円
- 尿検査:1,000〜2,000円
- MRI検査:5,000〜20,000円
- CT検査(1部位あたり):5,000〜10,000円
- 超音波(エコー)検査(部位による):1,000〜3,000円
- 心電図:400〜1,000円
- ホルター心電図:5,000円前後
- 胃内視鏡(胃カメラ)検査:3,500〜5,000円
- 大腸内視鏡(大腸カメラ)検査:5,000〜10,000円
再検査の費用がかからないケースも。「会社負担」「二次健康診断等給付」
健康診断の二次検査(再検査・精密検査)を自己負担なく受けられる2つのケースを紹介します。
【会社負担】
福利厚生の一環として、再検査や精密検査の費用も会社負担としている会社もあります。職場に問い合わせましょう。
【二次健康診断等給付*6】
二次健康診断と健康指導を無料で受けられる制度です。かかった費用ではなく、健康診断と健康指導そのものが給付されます。
<対象者>
健康診断の結果、脳・心臓疾患を発症するリスクが高いとされた方で、以下すべてに当てはまる方。
・直近の健康診断において、血圧、血中脂質、血糖、腹囲(またはBMI)の4項目すべてに異常の所見があると診断された
・脳血管疾患または心臓疾患の症状を有していない
・労災の特別加入者ではない
<内容>
以下の検査と、医師または保健師による特定保健指導(栄養、運動、生活)が無料。
・空腹時血中脂質検査(HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪)
・空腹時血糖値検査
・HbA1c(ヘモグロビンA1c)検査(一次健康診断で実施していない方のみ)
・心エコー検査(負荷心電図検査または胸部超音波検査)
・頸部超音波(エコー)検査
・微量アルブミン尿検査(尿蛋白検査の所見が疑陽性または弱陽性の方のみ)
<給付の流れ*7>
健康診断から3ヶ月以内に「二次健康診断等給付請求書」と健康診断の結果(写しなど)を持って、労災病院または都道府県労働局長が指定する病院・診療所を直接受診することで、無料で受診できる。
詳細はお住まいの都道府県の労働局へ問い合わせてください。
健康診断の結果、再検査・精密検査を受けたかどうかは会社に知られる?
会社は健康診断を行い社員の健康状態を把握する義務がある
会社は労働安全衛生法によって健康診断の実施が義務づけられており、同法では「健康診断の結果は従業員に通知しなければならない」*8としています。このことから、本来、健康診断の結果は会社が把握したうえで社員に通知するものである、と考えられます。またプライバシーへの配慮も喚起しており、厚生労働省では健康情報を取り扱える者について、「人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者、産業保健業務従事者、管理監督者及び人事部門の事務担当者」*9としています。
つまり、会社は健康診断の実施を通して社員の健康状態を把握する義務があるが、健康診断の結果を把握できるのは社内の限られた人のみであり、取り扱いにも十分な配慮がなされる、ということです。
会社の健康診断の再検査・精密検査を受けていないことは会社にバレる?
健康診断の実施は会社の義務であると同時に、従業員にとっても受診の義務があります。一方、二次検査(再検査・精密検査)の受診は任意であり、結果や受けていないことを会社に報告する義務もありません。ただし、厚生労働省による「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」には「会社は再検査の受診勧奨とともに、二次健康診断の結果を事業者(会社)に提出するよう働きかけることが適当である」との記述があるため*8、会社側から受診の有無を聞かれたり、結果の提出を求められる可能性はあります。また、会社には社員が安全に働けるよう配慮をする義務(安全配慮義務)*10もあることなどから、二次検査を必ず受けるよう就業規則などで定めている会社もあります。
繰り返しますが、自身をいたわり、管理できるのは自身のみです。身体の状態や、再検査や精密検査が必要となった理由を知るためにも、必ず受診しましょう。
再検査・精密検査の結果報告も必要?
前述のとおり、二次検査(再検査・精密検査)の受診結果を会社に報告する義務はありませんが、厚生労働省の指針*8に基づき会社から報告を求められる可能性はあります。
従業員の体調を考慮しながら適切な労働環境を整えることは会社にとって大切なミッションであり、健康診断および二次検査の結果は従業員の負担軽減を考えるうえで大切な材料でもあります。これらのことから、会社から求められた場合は二次検査の結果を報告することが望ましいと言えます。
参考資料
*1.厚生労働省 定期健康診断結果報告
*2.厚生労働省 定期健康診断結果報告 集計結果 用語の解説
*3.日本人間ドック学会「判定区分 2023年度版(2023年5月26日改定)」
*4.厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
*5.厚生労働省 紹介状を持たずに特定の病院を受診する場合等の「特別の料金」の見直しについて
*6.厚生労働省 東京労働局 二次健康診断等給付について
*7.厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労災保険 二次健康診断等給付の請求手続」
*8.厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(2017年4月14日改正」
*9.厚生労働省「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き(2019年3月)」
*10.e-Gov法令検索 労働契約法